「おはようっ、明寿咲ちゃん」
鬼塚さんに挨拶されて、嫌な汗が伝う。
「ねぇ、私のお兄ちゃんに文句言ったってホント⁉︎ それで、李月くんに助けられて、李月くんと研由先輩と帰ったの⁉︎ アンタ何様⁉︎」
見られてたんだ…。
千紗の姿を探したけれど、まだ来ていない。
いつも来てるはずだから…休み⁉︎
「あなたのお兄ちゃん、川にゴミ捨ててたから注意したんだけど?それが悪いことなの?むしろお兄ちゃんがダメじゃない?」
またやってしまった…。
私の短所だ…。
「じゃあ、逆に訊きますけど。李月くんたちとは、どういう関係なの?」
「学級委員だからって調子乗らないでくれない?なんでそんな知りたがるの?」
「ねぇ、訊いてるんだけど‼︎」 
「私もだよ」
私たちが睨み合っていると、李月が無言で教室に入ってきた。
「…っ!李月くん、おはよ〜」
私を睨んでいた人とは別人じゃないかというほど、態度を変えた鬼塚さん。
「おはよ」
李月は表情ひとつ変えずに、鬼塚の横を通り過ぎて、私のところへ来た。
「明寿咲、これ。忘れ物」
鬼塚さんの表情がサッと変わる。
怒り、嫉妬、劣等感。
そんな気持ちで私を見つめている気がする。
李月…あなたが私に接してるせいで、私がひがまれてるんだよ?
ちょっとは気持ち考えてよ。
まぁ、わかんないよね。男子なんだし。いいね、男子は。そうやってひがみとか、辛い思いもしないんだし。
「…ありがと」
私はそれ以上、まわりの視線に耐えられなくて、忘れ物のノートを奪うように取ると、廊下に飛び出した。
あのノート、わざと家に置いてきたのに。
どこに行くわけでもなく、ひたすら廊下を走る。
「ねえ知ってる?研由先輩って、期末テストも中間テストも、全部上位にいるんだよ。悪くて3位だって!羨ましいよね〜」
へえ。研由って、そんなに頭いいんだ。
普通に頭いいのは知ってたけど、それほどとは思わなかった。
「うんうん!でも、あの龍二先輩と双子だとは思えないよね‼︎ 全然雰囲気違うし。私、『学園の王子様』たちに会うために入学したのに、同級生の李月様とは違うクラスで、まだひとこともしゃべったことないんだよね〜」
「それは私もだよ!だけど〜、私は、いつまで経っても研由先輩推し‼︎」
「えー、私は李月様が気になってるかも‼︎ でも、他の王子様も…」
通りすがりの女子たちの会話を聞きながら、走る、走る、走る。