私は翌日、寝坊しないように早く起きた。
ちゃんとご飯は食べなきゃ、って昨日思ったから。
キッチンに顔を出した研由と、挨拶を交わす。
「おはよう」
「おはよ。作ってくれてありがと」
まだ眠そうな目をこする研由に、笑みを向ける。
「こちらこそ。昨日、勉強になったから。研由の頭の良さも、優しさもすごくて、嬉しかった」
「それはよかった。俺さ、昨日…カッコ悪いことしたんだ」

なんのことだろう。
「俺、実は途中から見てたんだ。李月が2人の男子を追いはらったところから。そのまま帰ろうと思ったんだけど、なんか2人がいい感じで…。アイツに、李月に取られたくなかった。だから、わざと声をかけて、2人の邪魔をした。ごめん。すごくカッコ悪いからさ」
そうだったんだ。
まあ確かに李月が何を言おうとしたのかは気になったけど、そのときは忘れちゃったからな。
「でも…正直に話してくれてありがとう」
「じゃあさ、このこと、俺たちだけのヒミツにしてくれない?」
「ヒミツ?いいよ」
指を絡めて、懐かしい指きりの歌を歌う。
「懐かしいな」
「うん」
なんだか、心が温かい。
そう思って、ふとフライパンに目を向けると。
「ああっ‼︎ 卵焼き、焦がしちゃった!」
「別にいいよ。だって、卵には食中毒の原因菌となるサルモネラ菌という菌が付着していることがあるんだけど、サルモネラ菌は75度で1分以上の加熱で死滅する。だから焦げた方が、サルモネラ菌が完全に死滅してるって断言できるでしょ」
フォローしてくれているんだろうけど…ちょっと意味がわからない。
フライパンの火をとめて、
「そ、そうだね。ありがと…」
私が心の中で苦笑いしていると、
「おはよ。今日は明寿咲、早起きじゃん。昨日、変な男に絡まれたんだって?しかも、俺の同級生。またなんかあったら言えよ」
「おはようっ、ありがとう、時尾留」
「軽いな。本当に大丈夫か?」
照れ笑いをごまかして、うなずく。
「おい、卵焼き…」
「ご、ごめん。焦がしちゃった」
「うまそう。俺、ちょっと焦げた卵焼き、好きなんだ」
みんな、優しい…。
磯崎家は、全員イケメンだし、性格もイケメンだからモテるんだろうな。
「「おはよう」」
「あっ、龍二と李月。おはよう」
「話が聞こえた‼︎ 明寿咲の卵焼きぃ?食べる、食べるぅ〜♡ん、おいしい!」
李月は私が持っていた菜箸を取ると、出来たての焦げた卵焼きを口に運んだ。
「熱っ…けど、めちゃくちゃおいしい!恋の味、っていうのかな♡」
「は、恥ずかしいよ…こ、恋の味って何よ…」
もう、『学園の王子様』全員集合のパジャマ姿、私しか知らないよね。
しかも、そのひとりから、作った卵焼きを、恋の味とかよくわからないこと言われるし…っ。
「俺の食いたいんだけど」
李月から菜箸を奪うと、龍二がフライパンの卵焼きの一切れを食べる。
「ちょっと、朝ご飯が減っちゃうよ‼︎ もうこれでつまみ食いはおしまいだよ」
「今は全体の約20%減少。5人が均等に、つまみ食いした分もみんなと同じ量にするためには…」
また天才モードON ⁉︎
研由は、李月もだけど、オンオフがはっきりしてる。
「ご馳走様でした」
あの後、しっかり研由が5等分してくれて、それぞれ登校した。