昨日はさっそく夜ご飯を作って、食べて、お風呂に入って、寝た。
「おはよ〜、朝だよ、明寿咲‼︎」
「んぅ…」
まだ眠い…。
でも、よく寝ることができた気がする…。
「そんなかわいい顔してると、ハグしちゃうよ?」
「えっ、ハグ…⁉︎」 
李月の言った言葉に思わず反応すると、
「あ、おはよ」
と至近距離で微笑まれる。
なっ…!
「もうちょっと寝てたら、遅刻するところだったんだよ」
「どういう…」
あ‼︎ 時計を見たら、7時19分。
学校には、7時30分までには登校しなくちゃいけないのに‼︎
部屋のドアを開けた先には、お腹をすかせた時尾留と、苦笑いの研由、なんともいえない表情の龍二が待っていた。
「待って、本当に遅刻する‼︎ 悪いけど、朝ご飯ぬきで‼︎」
「は…えええ⁉︎ おい、明寿咲!」
龍二の声が追いかけてきたけれど、部屋のドアを強く閉めて、カギをかける。
急いで着替えて、顔を洗い、歯を磨いて…髪を結ぶ。
「いってきます‼︎」
「ま、待って〜!明寿咲、一緒に行こうよ〜!」
全力で走るけど、4人も余裕そうな足取りで私のペースに合わせてる。
こんな姿、誰かに見られたら…!どうすんのよ⁉︎
振り返ると…あれ?
李月が制服を着崩しているように見えるのは…気のせい、かな。
そんなことより、遅れる…‼︎
慌てて教室に駆け込むと、ギリギリセーフ。
李月も涼しい顔で席につく。
「はあ…はぁ…」
「李月くんっ‼︎ 今日はギリギリだったね。いつも1番に教室にいるのに〜」
たぶん、この女の子がクラスのリーダー的存在だ。
髪を巻いて、リップを塗って、軽くお化粧してる。
どれも校則違反だけど、誰も言えていない。
しかも、取り巻きの人をたくさん引き連れている。
私の方をチラッと見た後、
「もしかして、一緒に来たの?」
と甘い声でたずねた。
言わないでよ、李月…‼︎
心の中で必死に願っていると。
「別に。一緒に来たわけじゃねぇし」
え?今、李月の声?
体調が悪い、のかな…?
そうとしか考えられないけど…。
「お前らには関係ないことだろ」
「そんなことないよ〜。私、代表委員じゃん!みんなのことを知る権利があって当然なの〜」
と、とにかくこのリーダーの人には、逆らっちゃマズそう…。
休み時間。
「おはよっ、明寿咲‼︎ 今日は元気があってよかった…!」
千紗が満面の笑みで挨拶をしてくれた。
「え、あ、うん。おはよう。心配かけてごめん」
「ううん〜!元気になったらいいんだよ〜!最近、どうしちゃったの?ずっーと魂がぬけたみたいに過ごしててさ〜。一応、ノートにはうつしてたみたいだけど」
やっぱり、私は千紗の目にはそんなふうにうつってたんだな。
「あぁ…ずっと寝不足で。あんま記憶ないんだよね…」
「え、マジで大丈夫⁉︎ 」
千紗は声のトーンを落とした後、
「あ、じゃああの鬼塚(おにづか)さんのこと、知らないよね?あの人に逆らっちゃホントマズイよ」
と教えてくれた。
「鬼塚さんは、明寿咲の隣の席の磯崎くん…李月くんっていうんだけど。鬼塚さんしかこのクラスで『李月くん』って呼んじゃダメなの。李月くんって言わないように気をつけて。まあ、明寿咲は興味ないでしょうけど。あと、あのクールな磯崎くんのことが好きらしいの。気をつけて」
「はーい」
って、ウソでしょ⁉︎
あの子犬の李月が⁉︎ 学校ではクールだなんて…。
体調が悪いわけじゃないみたい⁉︎
しかも、名前で呼んじゃダメなんて…。
李月くんではなく、李月って呼びそうで怖いよ。
「でね、磯崎くんちは4兄弟!あのウワサの4兄弟のひとりなんだよ‼︎ 5クラスあるうちの1クラスに私たちと磯崎くんがいるって、運命としか思えない…!学園の王子様〜♡」
千紗はイケメン好きだから、一度話したらとまらない。
今までの私だったら、流していたけれど、あの人たち、意外と…ううん、すごく有名人みたい!色々とバレたときが本当にマズイ。気をつけなくちゃ。
「ふーん」
そっけない感じで返したつもりだったけど…
「なんか、頬が緩んでない⁉︎ もしかして、磯崎くんに恋しちゃった⁉︎」
ちょっと、千紗はどこまで鋭いのよ。
恋はしてないけど…頬が緩んでたのは事実かも。
「いやいや、私が恋って…千紗もわかってるでしょ」
「まぁね。でも、今、絶対恋する乙女の顔だった!違うなら、クラスの真ん中にいる磯崎くんが羨ましいんでしょ!」
千紗がそれとも…と続けようとしたけれど、チャイムが鳴って、休み時間は終わってしまった。