「そういえば…お父さんとお母さんは?」
「2人は今日から1年間東京に出張だってさ。『明寿咲ちゃんは女の子たから、きっと家事はなんでもできるはず!だから、色々任せるけど、ごめんね、よろしく!』って」
研由が涼しい顔で教えてくれる。
…ええっ⁉︎ 1年間、出張⁉︎ それはどういう…。
「一応、研由が洗濯と掃除はできるけどな…」
待って、今、李月が初めてわんこキャラじゃなかった⁉︎
そんなことより…、この人たち、いったい何を話し出そうとしてるの?
「そ。俺、料理できないんだよね」
「だから、お願いっ‼︎ 明寿咲のお料理食べたいなぁ…」
「今日の夜ご飯、何?」
いつの間にかひょこっと顔を出した龍二。
みんな、私が作ること前提でいたの〜⁉︎
「明寿咲、他に荷物は?」
「あ、ありがとう時尾留…。これ、お願いしてもいい?」
「もちろん」
額にキスをされる。
唇が、触れたところが、熱い…。
熱帯びている。
ドキッとした。
「明寿咲、今、ドキッとしたでしょ」
「な、なんで龍二、わかるの⁉︎ 龍二にされたわけじゃないのに…?」
私は、時尾留にされたんだよ…?き、キスを‼︎
「だって顔に出てるし、真っ赤になってたし、こんなの初めて、みたいな感じだったし」
そんな、バレてたなんて…恥ずかしすぎる。
「も〜‼︎ 照れる明寿咲、めっちゃかわいいんだけどぉ〜‼︎ じゃあ僕が、ファーストキス、奪っちゃおっと」
唇が重なる。
恥ずかしすぎる…。ファーストキス、奪われちゃったし…。
セカンドキスは、今度こそ!好きな人とするんだ‼︎
そう決意した。
義理の兄妹となんて、しないから‼︎
「ここから、俺が明寿咲の部屋に案内するから。研由、洗濯してきて。なぁ、明寿咲?時尾留のきったない部屋、時尾留はもちろんだけど、李月も手伝ってほしいよな?綺麗な部屋、見たいよな?」
わっ、龍二に目で脅されてる‼︎
「う、うん」
「わかった〜!明寿咲の願い、叶えるよっ♡時尾留、すぐ片付けるよ!」
「おまっ、ちょっと…」
時尾留は引きずられるように部屋へと入ってしまった。
研由はうなずいて、どこかへ行った。
「ここが、明寿咲の部屋だから。たぶん、荷物は全部あいつらが運んでくれただろ」
「ありがとう…」
オシャレなベッドだなぁ…。
勉強机も置いてもらって…すごい、この部屋!
「セカンドキスになるけど…」
「ん?」
私が振り返ると、また唇と唇が触れる。
今日、何回キスされてるの〜?
「恥ずかしがる元気あって、よかった」
「え?どういうこと?」
「だって、川を見つめてたとき、『死にたい』なんて言ってたから」
聞かれてたんだ…。
「そんなに苦しんでたんだって思うと、元気つけてほしくてさ…。軽いノリで話しかけて、悪かった」
龍二…。
出会ったときは、なんだこの人。と思ったけど、そんな優しさが隠れていたなんて。
「もっと、この生活に慣れてからでいいけど…いつか、なにがあったかどうしてこうなったか教えてくれる?」
頭をポン、としてくれ、涙が出てきそうになった。
こんな感情、前に消え失せたはずなのに。
「うん」
「泣きたいときは、思いっきり泣ていいんだよ。自分の感情、押し殺さないで」
龍二の優しい言葉に、私は思いっきり、思いっきり泣いた。
「入るぞ〜」
唐突にそんな声がして、振り返る間もなく、時尾留が部屋に入ってくる。
「明寿…っておい!龍二‼︎ なに明寿咲泣かせてんだよ‼︎ 」
涙目の私に驚いたのか、龍二を責めてしまっている。
「違うの。龍二は私のこと、なぐさめてくれてたの」
「なんだ、そういうことか…。びっくりさせんなよ、龍二」
「は?なんで俺?」
龍二のおかげで、場が和んだ。
新生活はどうなるかと思ったけど、今のところは意外と順調、かな。