総務部長の柴川徹は現在58歳。先代の所長時代から総務部長を務めている。気難しそうな顔をしているが内面は優しく、家族思いの男性。メガネをかけて中肉中背である。

「金澤さん。我が事務所で勤務をするなら、規律を守ってもらいたい」
「規律? 」
「先ず服装。事務員として勤務するなら、それにふさわしい服装をしてもらいたい」
「え? 美和の服装が何かいけないのですか? 」

 部長は呆れたように小さくため息をついた。

「金澤さんは自分の年齢を考えた事はあるのかね? 遊びに行くならどんな格好でも構わない。だが、仕事をする為に来ているなら。周りと協調性を考えてもらいたいのだ」
「えー? 」

 美和は周りを見渡した。

 みんな女子はシンプルなブラウスやスカート。スラックスでも派手な格好はいない。髪もほどよい茶色やブラウン系はいても、派手な金髪などはいない。男性もスーツかカジュアルなポロシャツにスラックス姿。髪も短髪にしていて派手な髪色は誰一人いない。

「つまんなぁい」
 子供の様に頬を膨らませた美和。
「なんでオフィスってだけで、服装決められるのですか? どんな格好でも自由だと思います。美和は、好きな服を着て好きな格好をしているだけです。何が悪いのですか? 迷惑かけていますか? 」
「TPOと言うのが社会人にはあるのだ。それが分からない年齢でもないと思いうが? 」
「ふ~ん。分かりました」

 素直に返事をしたと思われた美和だが…。

 突然ワンピースのファスナーを下ろして部長の目の前で脱ぎ始めた。

 パサッとワンピースが床に落ちた。

「これでいいですか? 」

 平然と言った美和だが。ワンピースの下は下着だけで、年齢と共についた贅肉が下着からはみ出している裸体は痛いとしか言えない。お腹も出ていてショーツの上に乗っかっている。

「この格好なら仕事してもいいでしょうか? 」

 部長は驚きすぎて固まってしまった。

「わぁ、あいつ何をしているんだ? 」
「いきなり服脱いで、あんな格好してるぜ」

「なんなの? あんな体見せられても、気持ち悪すぎじゃない? 」
「何考えているの? 」

 他の社員達がヒソヒソと騒ぎ出した。

「もういい。とりあえず服を着てくれ。そんな格好じゃよけいに仕事はできない」
 呆れて言葉を失った部長がかろうじて言った。

「はぁ~い分かりました」
 ニコッと気持ち悪い笑みを浮かべて美和はワンピースを着直してデスクに戻った。

 部長は頭を抱えてしまった。


「なにあの人。頭おかしいの? 」
「なんでここで雇われているの? 」
「不採用だったけど、採用者が入院して代わりにって言っていたけど」
「普通採用されないわ、あれじゃ」
「やばい人じゃない? 」

 ヒソヒソと社員が言っていることはまるで聞いていないようで、美和はネイルを見ながらチラチラとパソコンを見ているだけだった。


 

 駅前のホテル。
 ロビーでクライアントとの約束があり待っている幸太と愛良。

「こんにちは、お待たせしました」
 片言の日本語で現れたのは背の高いがっしりした金髪の男性だった。
 紺色のスーツ姿で、どこかの営業マンのような雰囲気の男性。

「お待ちしておりました。フローレンシア様ですか? 」
「はい。そうです」

 フローレンシアと聞いて愛良はハッとなった。

「あれ? 」
 フローレンシアは愛良を見て驚いた。
「おお、愛良。久しぶり、元気してた? 」
 片言の日本語で愛良に喋りかけて来たフローレンシア。
「…もしかして、あのフローレンシア? 」
「はいはい、その通り。いやぁ~懐かしいねぇ」

 フローンレンシアは愛良にハグをしてギュッと抱きしめてきた。