「あの。彼女は俺の秘書です。手荒な事は辞めて下さい」
「え? 秘書? 秘書は私よ。幸太さんの傍には、私がいなくてはならないのよ」
幸太は小さくため息をついた。
「申し訳ないのですが。秘書は彼女にお願いしています。なので、あなたはご自分が採用された部署に行って下さい」
「そんな…だって、あの子は幸太さんの秘書候補で面接に来ていたでしょう? その子がダメになって私が代わりに雇われたのに。どうして秘書ではないの? 」
「伺いますが、秘書検定は持っていますか? 」
「え? そんなのはないわ。でも、前職でもずっと秘書でした」
「俺は秘書検定を持っている人しか、秘書として傍に置いていません」
信じられない目をして美和は愛良を睨み付けた。
「ちょっとあなたは、秘書検定持っているの? 」
愛良は仕事の手を止めて美和を見た。
「持っています」
「へぇ…じゃあどこの大学を卒業したの? 私は名門S大学で国立大学よ! 」
勝ち誇ったように見下す美和を見て、愛良は小さく笑った。
「あのS大学。確か6年前に合併されましたよね? N大学に」
「え? 」
「確か廃校になったのではありませんか? 」
「廃校になっても学歴は変わらないわ」
愛良は呆れた目をして美和を見た。
「そうですね。…私は…KB大学です」
「え? KB大学? 」
美和はあまりピンとこないようだが、幸太は目を丸くして驚いている。
「すみません。日本ではありませんので、ご存知ないでしょうか? 有名大学ではありますが」
すっかり分からない顔をしている美和を見て、幸太はやれやれとため息をついた。
「KB大学は。H大学やST大学と並んで、海外でもハイレベルな大学。入学はできても簡単に卒業できないエリート大学だ。あなたが卒業したS大学とは、きっと天地の差があります」
「そう…なのね…」
「もういいですか? とりあえず人事に行って配属先を確認して下さい。俺の秘書ではない事は確かですから」
チッと小さく舌打ちをして美和は仕方なく出て行った。
「困ったものだ。後から人事に確認しておくよ」
席に戻った幸太。
「それにしても、末森さんは随分とエリートなのですね」
「いいえ。それ程でもありません。私が家を出た方が楽だと思ったので、海外の大学に進学しただけですから」
愛良はシレっと答えた。
そんな愛良を見て幸太は小さく笑った。
(お姉ちゃんにはかなわない。すごく頭も良くて、通訳なしで英会話こなしちゃうから。そんなお姉ちゃんの事、私のせいで犠牲にしているの…)
彼女が言っていた事は本当だったんだ。疑っていたわけじゃないけど、あんなハイレベルの大学に合格するだけでもすごいから。
でも…どうして、今派遣社員なんかやっているのだ? もっと良い就職先があると思うけど。
そう思いながら幸太は仕事をしながらチラッと愛良を見ていた。