幸太と一緒に病院へ着た愛良は中絶は取りやめる事を伝えた。
「そうですか。出産を決められたのですね、よかったです」
担当医師は女性で穏やかなや足い雰囲気の年増の医師。愛良が一度は出産を決めたのに、中絶を申し出てきた時は考え直せないのかと何度も聞いていたくらいだった。
「今日はご主人も一緒に来られているのですか? 」
「え? あ、はい…」
「そうでしたか。ロビーに男性の方がいらしたので、そうではないかと思いましてね。ご主人も着いていらっしゃるのですから、安心して出産して下さい。誰でも、初めは迷うものです。でも、一歩ずつ生まれてきた赤ちゃんと一緒に進んでゆけばいいと思います」
「はい、そうします」
診察を終えてから愛良は分娩予約をとった。
生まれるのは来年の春になる。今は悪阻は収まって空腹時に胃の不快感を感じるくらいだが、妊娠が発覚してからはずっと何も食べれない状態で水も受け付けられなく点滴に通っていた愛良。
そのせいもあり体重は15㎏減り見違えるほどスリムになった。しかし、酷い悪阻がおさまり次には過食になる場合もある。
どちらにしても食欲が増えてくる時期もやってくることから体重管理をしっかりするように言われた。
診察を終えて愛良と幸太はそのまま駅前まで歩いてきてタクシー乗り場に向かっていた。
「まだ暑いからあまり無理をしないようにね。明日、改めて叔父さんにご挨拶させてもらうよ」
「はい、分かりました」
「俺の爺ちゃんにも会ってほしい。それから、俺の両親にも。ずっと16年会っていないけど、愛良の事はちゃんと紹介しておきたいから。きっと、もう姉さんから話は言っていると思うけどさっ」
「お姉さん、私と同じ学校だったなんて驚きました。ずっと、私の情報を集めていたと話していましたから」
「姉ちゃんお喋りだなぁ。そこまで話しちゃうなんて」
「お医者っさんだなんてすごいですね」
「ああ、姉ちゃんは医者で兄貴は検事。エリートコース歩いている。俺とは真逆の仕事してるけどね」
「幸太さんだって、じゅうぶんエリートだと思いますよ。ずっと一人で頑張ってきて、すごいと思います」
褒められると幸太は照れたように頭を掻いた。
あまり褒められることに慣れていない幸太だが、愛良に褒められると素直に喜びを感じていた。