「ごめんなさい。…私…あなたと離れてから、同級生のフローレンシアと結婚しようとしていました。妊娠が発覚して、どうしようか迷っていた時に彼と再会して。彼が離婚騒動は解決できたから、一人でいるなら結婚してほしいと言われて。妊娠している事を離したら、父親になるからと言われて。彼の母親も歓迎してくれるというので、それがいいと思って結婚することを決めました。でも…彼はあんな形で…。彼がいなくなって、やっぱり私が母親になろうとなんて思ったのが間違いだったと思いました。…だから、お腹の子も産むのをあきらめようと思って…」
「そうだったんだ」
 
 一度にたくさん話した愛良は呼吸が乱れていた。
 そんな愛良の背中をそっとさすった幸太。

「俺には言わないつもりだったのか? 」
「はい…。あなたには、私よりももっと良い人がいると思ったので…」
「そうだったんだ。今でも、子供は産みたくないと思っているのか? 」
「今は…」
 
 そっとお腹に手を当てた愛良。
 中絶を申し出た時の診察で、11週目の赤ちゃんをエコーで見せてもらった。
 しっかりと心拍を確認して心音も確認できた。体も出来上がってきているようで、お腹の中で順調に育っている姿を確認した。その姿を見ても本当に中絶を望むのかどうかを聞かれたとき、正直な気持ち迷いが生じた。

 答えに詰まった愛良を見ていた幸太は。
「産んで下さい」
 と言った。

「え? 」
 本当に産んでいいのか…それを確かめたくて愛良は幸太を見つめた。
 幸太は真剣な眼差しで愛良を見つめてそっと微笑んだ。
「お願いします。その子を、殺さないで下さい。その子には…俺の命だって、半分入っているから…」
 そう言って頭を下げた幸太。
「でも私…母親になる自信なんてありません…」
「自信満々で親になる人はいないと思う」
 そっと顔を上げた幸太は、愛良を見つめて小さく微笑んだ。
「初めての事に、余裕がある人は少ないだろう? 俺だって、実際に赤ちゃんが産まれたらどうなるのか分からない。驚くばかりで、何もできないかもしれないし。驚きすぎて逃げ出しちゃうかもしれないけど…」

 幸太は愛良のお腹に手を当てた。
「わぁ…結構膨らんでいるんだ。…」
 ぽっこりと膨らんだ愛良のお腹に触れて、幸太は幸せを感じた。何となくだが、暖かく強いエネルギーが伝わってくるようで嬉しくなった。
「この子は、俺と愛良を選んできてくれたんだろう? それに、この子には俺の命だって半分入っているから。一人じゃない、おrも一緒にいるから」

 こんなに想ってくれているのに…私…離れなくちゃいけないって思ていた…。
 でもどうしても会ってしまう。
 これが運命と言うのだろうか?

 胸がいっぱいで愛良は何も言えなくなった。

「今日は病院へ行く日だったのか? 」
「はい」
「そっか。じゃあ、俺の一緒に行っていいか? 」
「一緒に行くのですか? 」
「ああ、この子を産むために手続きしなくちゃいけないだろう? あ、先に中絶の取り消しか」

 幸太が一緒に来てくれる…それは嬉しいけど…本当に産んでいいの?
 愛良の内にはまだ迷いが残っていた。

 とりあえず迷いは消えないままだが、子供を中絶するのは辞めることにして幸太と一緒に病院へ向う事にした愛良。