幸太は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
そんな幸太に愛良はゆっくり歩み寄って行き、そっと鞄からハンカチを取り出して渡した。
「これ…使ってください…」
柔らかい木綿のハンカチを差し出され、幸太は照れくさそうに受け取った。
「…有難う…」
受け取ったハンカチで顔を拭いた幸太。
ハンカチで顔を拭くと目の前の愛良をじっと見つめて、ギュッと抱きしめた。
抱きしめられると驚いて愛良は持っていたバックを落としてしまった。
「…もういなくならないで。…絶対に俺が守るから…」
「ごめんなさい…」
そう答えた愛良は泣き出してしまった。
「…俺と…結婚して下さい…」
「え? 」
突然のプロポーズの言葉に愛良は驚いた。
「本当はあの夜に、言いたかったけど。想いが通じたばかりで、まだ早いかない? って思った。でも…もう離れたくないから」
「…でも…私…」
ヒラヒラ…。
幸太は足に何かの紙が引っ掛かっているのに気づいた。
「ん? 」
足に引っかかっている紙を手に取った幸太は、内容を見て驚き真っ青になった。
「これ…」
幸太が持っている紙を見て愛良はハッとなり取り上げようとしたが、ひょいと交わされてしまった。
「返して下さい…」
そう言った愛良の声が震えていた。
幸太は一息ついて、とりあえず愛良の鞄から出てしまった荷物を拾って鞄に閉まい愛良に渡した。
「…す・すみません…」
申し訳なさそうに鞄を受け取った愛良は、ギュッと鞄を握りしめて何も言わないまま佇んでいた。
「…ごめんなさい。一人で背負わせてしまって…」
そう言った幸太の声がとても悲痛に聞こえて、愛良の胸を締め付けた。
「こんな俺の子供じゃ産みたくないって、思っても仕方がないと思うから…」
「ち・違います! 」
「いいよ。そう思われても、俺納得できるから」
「違いますって! 勝手に決めないで下さい。産まないと決めたのは…こんな私が、母親になる資格はないと思ったからです」
「え? どうして? 」
「だって…」
フラッと倒れかかった愛良を幸太はそっと支えた。
「とりあえず、そこに座ろう」
愛良を支えながら幸太はベンチに座った。