1週間後。

 フローレンシアの一件が落ち着き、フローレンシアの母親はアメリカへと帰って行った。
 愛良も一緒に着いてゆこうとしたが優斗にとめられた。

 美和はあれからあちらこちらで目撃されていて、どうやら駅前付近でホストをひっかけて匿ってもらったり、変装を繰り返しキャバクラで日払いバイトを繰り返し金持ちの男を落としているようだが。変装も限界が来ているようで、若いキャバ嬢に比べて30代後半になる美和はみるからにオバサンで相手にされなくなっているようだ。
 しかし執着のすごい美和は狙ったお客を追いかけて睡眠薬を使ってホテルへ連れ込んで金目の藻を奪っている。クレカを奪い限度額いっぱいに使い果たしキャッシングも限度額マックスまで借りて逃げている。

 殺人と窃盗を繰り返しているようだが。
 最近現れる美和はどこか体調が悪そうにしているという噂もある。
 いつも高級ワインやシャンパンを見境なく開けさせているが、飲みっぷりが減っていて顔色も悪いようだ。ホテルへ連れ込まれた男達もなにか病気でももっているようで怖いと証言をしている。

 
 病院へ受信できない事から闇医者に診てもらっているのではないか? と思われるが。闇医者はまともな薬もなく、治療もままならないことから病気であれば逃走もできなくなるのではないかと断定されている。


 
 
 昼下がり。
 
 駅裏にあるビルの中にあるレディースクリニックを見つめている愛良がいる。
 和服の時と違い、かわいらしいピンク系のワンピース姿で白いつばの広い帽子をかぶっている。ワンピース姿になると、かなり細くなったのが分かる愛良。だが腰回りがふっくらとしていて細身のわりにはお腹がポコっと出ているように見える。
 靴はかかとのない白い靴を履いている。

「はぁ…」
 小さくため息をついた愛良は、ビルの中へ入る事を躊躇っているようだ。何度も一歩踏み出しては引き下がって、また一歩踏み出す事を繰り返している。


 愛良が躊躇しているところへ遠くから歩いてくる幸太の姿が見えた。

 愛良は遠くから見えた幸太の姿に驚き、その場から足早に去って行った。


「ん? 」
 
 去ってゆく愛良の後ろ姿が目に入った幸太は、帽子で顔を隠しているが胸がドキッと高鳴ったのを感じた。

「もしかして…」

 高鳴る胸を押さえながら幸太は愛良を追いかけた。


 
 ビルの前を去った愛良は、そのまま公園へと歩いてきた。

 暑さが軽減され心地よい風が吹く中、公園では小さな子供を連れて遊んでいるママさん達がいる。

 早歩きをして公園に歩いてきた愛良は息切れがして、近くのベンチに座って呼吸を整えた。

 コロコロ…。
 愛良の足元にボールが転がって来た。
 
 ヨチヨチとまだ2歳くらいの男の子がボールを追いかけて愛良の元へやって来た。

 可愛い無邪気な男の子は、まだ小さいのに必死に走ってボールを追いかけてきていた。そんな姿を見ると愛良は、そっとお腹に手を当てた。
 11週目に入った赤ちゃんは、双子であるとハッキリ判ったようだ。でも…愛良は産むことはできないと決意して、子供は中絶する事に決めたのだ。
「ごめんね…」
 小さく呟いた愛良。