午後3時を回る頃。
 優斗は駅前のシティーホテルのカフェに来た。

 優斗が窓際の席に座って相手を待っていると。
「お待たせしました」
 声がして優斗が振り向くと…現れたのは幸太だった。
「初めまして、樫木幸太と申します」
 言いながら名刺を渡した幸太。
「初めまして、末森優斗です。どうぞ、おかけください」
 向かい側に幸太を招いた優斗。
「失礼します」

 少し緊張した面持ちで向かい側の座った幸太は、注文を取りに来たウェイトレスに珈琲を注文した。

「ご連絡が来ることをお待ちしておりました」
 優斗は穏やかな表情で幸太を見つめた。
「突然申し訳ございません。あの…末森愛良さんは、ご一緒でしょうか? あなたが愛良さんの叔父様だと伺ったものですから」
「はい。確かに愛良は私と一緒にいます。身元引受人として、愛良を引き取っています」
「そうでしたか。良かったです…誰かと一緒なら、安心です」

 優斗は珈琲を一口飲んでじっと幸太を見つめた。
「愛良は、縁談の話がありましてね」
「え? 」
「学生時代の同級生と、ご縁があったようで」
「本当ですか? 」

 そう尋ねた幸太の目が潤んでいた。
 今にも泣きそうな顔をしちる幸太を見ると、優斗はズキンと胸を撃たれた。

 こんなに純粋な男が世の中にいるのだ。ただ一途に人を愛している…愛斗と同じだ…。
 そう思った優斗。

「縁談の話を愛良は受けると決めていました。でも…その相手の方は、亡くなってしまいました」
「亡くなった? 」
「ええ、ニュースでご覧になられませんでしたか? フローレンシアさんの事」
「あ、はい見ました。…そうだったのですか、彼は愛良さんの大学の同級生だと伺っています。以前、依頼に来られて日本語があまり得意ではないと伺っていたのですが。愛良さんに助けられたのです」
「そうだったのですか。きっと、運命ですね」
「運命? 」
「ええ。愛良がきっと自分い嘘をついている。だから、神様が嘘を突き通すことは辞めなさいと言う意味でこういった流れになっているのだと思います。結果は、悲しい結末ではありますが」
「そう…ですか…」

 ギュッとこぶしを握り締めて幸太は唇をかみしめた。
 
「幸太君」
「はい…」
「愛良はとても頑固な子だけど。内面はとても優しく繊細な子だよ」
「それは十分わかっています」
「それじゃあ、問題ないね。愛良の事を、よろしくお願いします」
「はい。必ずお守りします」

 頼もしい彼だ。
 優斗は幸太を見ていると昔しの愛斗を思い出す。
 結婚に猛反対され、駆け落ち状態で結婚した愛斗。
 相手はただの弁護士で愛斗は末森財閥の後継者と言われていた。身分さがあると両親が猛反対したが、愛斗は家柄よりも愛する人を選んで家族との縁を切って結婚した。財産も何もいらないと言って、全く違う業種を選んで仕事をして家族を支えていた。
 遠くで見守っていた両親だったが、自分の力で成長してゆく愛斗に感心していた。

 自力でIT企業を立ち上げ会社を大きくしていった愛斗。
 娘二人を恥ずかしくないように育てていた。

 美しく成長している娘二人を見守りながら、愛斗の両親は亡くなっていった。水面下で愛斗に多額の財産を残していたが、それを受け取る前に愛斗は亡くなった。愛斗がいない今、財産を受け継ぐのは愛良しかいない。だが、優斗も跡取りがいなかった。妻との間に子供はできなかった。どこかから養子をもらう事も考えたが、愛良の事を知って是非養女にと考えたのだ。