和服の女性の後ろからフローレンシアに似てる外国人の女性が出てきて、フローレンシアと並んで和服の女性に丁寧に挨拶をしている。そしてホテルの前に黒い高級車が到着して、車から一人の紳士が降りてきた。
 その紳士は愛良の叔父・優斗だった。だが、幸太はまだ直接の面識がなく気が付かなかった。

 親しげに挨拶を交わして優斗と和服の女性は車の乗りこみ去って行った。
 車を見送ってフローレンシア達もタクシーに乗り込み去って行った。

 黒い高級車が道路に出てきたのを何気に幸太は見ていた。
 
 道路に出てきた黒い高級車。後部座席に乗っている和服の女性の姿を遠目で見ていた幸太は、近づいてくる車に鼓動が高鳴るのを感じた。

 なんだろう…あの時と同じ…。
 小学生の時、隆三の元へ養子に行くときに感じたあの気持ちと同じ…。

 幸太は通りすぎる車をじっと見ていた。

 すると…

「あっ…」
 
 車が通りすぎる瞬間。後部座席の窓から和服の女性の顔が見えて、幸太はハッとなった。

「あの女性…」

 後部座席から見えた和服の女性は、ほっそりとした清楚な美人だった。しかし、顔に面影が残っていた。

 それは…小学生の時の愛良だった。

 小学生の子供の面影を残しつつ大人になったような…

 幸太は遠ざかる車をじっと見ていた。


 愛良が姿を消して二ヶ月。
 仕事が忙しくなり、あまり考える事もできないまま時だけが過ぎて行った。
 携帯番号も変わっていて連絡がつかないまま。
 ただ幸太はもう一度必ず会えると信じていた。
 何も確証はないけど、幸太の気持ちがずっと変わらないままだから…。
 
 しかし、車から見えた和服の女性は…16年前の愛良に似ていた。

「愛良…やっぱり、会いたい…」
 遠ざかる車に向かって幸太はそう呟いた…。



 車に乗った和服の女性は、優斗の隣りで神妙な面持ちで俯いていた。
「本当にこれでいいのか? 」
 優斗が声をかけるとそっと頷いた女性。
「…彼には何も言わないのか? 」
「はい。…彼は、私より若いです。もっと、良い人がいます」

 どこか気持ちを押し殺してギュッと口元を引き締めている女性。そんな姿を見ると優斗は辛そうだった。

「彼は本気だと思うよ…愛良…」
 名前を呼ばれるとハッとなった女性。


 そう。
 この女性は愛良。
 2ヶ月前まで「デブ」と呼ばれていたが、この2ヶ月でスリムになったようだ。

 今日フローレンシアと会っていたのは、実は両親の顔合わせだった。
 フローレンシアが美紀との一件が解決して、愛良と再会した事で一緒にいたいと願い出た。
 愛良は優斗の元で仕事を始めてある変化の為体調を崩していた。その為かなり痩せてしまった。
 そんな愛良をフローレンシアは支えてゆきたいと言ってくれた。
 幸太の事もあったが、彼は大手の法律事務所を背負っている人。両親もいない自分より、もっといい人がいると思う。そう思った愛良はフローレンシアの気持ちを受け入れる事にした。
 フローレンシアの勤務する商社は優斗の銀行との取引もあり、仕事上でも好都合だった。