「幸太、大丈夫か? 」
隆三が心配して声をかけてきた。
「大丈夫だよ。きっと、そろそろ正念場じゃなかな? 」
「そうか…。お前、強くなったな」
ん? と幸田は隆三を見た。
「小さいのに強がって、陰で泣いていたお前をよく見ていたよ。まだまだ甘えたい歳なのに、私の元へ養子に来てくれた。亡くなった妻も喜んでいたが、親子の絆を引き裂いてしまったのではないかと悔やんでいた。だが、なんだかここ最近で強くなったようだな」
「守りたい人がいるから。その人のために、俺は強くいられるよ。相手がどんな凶悪犯だとしてもね」
そう答えた幸太は輝かしい笑顔を浮かべていた。
プルル…プルル…。
内戦が鳴った。
「はい…。繋いでください… …。代わりました、樫木です。…はい…二人共ですか? …分かりました…はい…」
静かに受話器を置いた幸太は真っ青な顔をしていた。
「どうかしたのか? 幸太」
「…受付の二人が、山林で首を吊っているのが発見されたと警察から…」
「二人ともが? 」
「うん。きっと…あいつの仕業だと思う。…」
「あの金澤美和か? 」
「うん…でも、二人も手にかけるって、女一人でよくできるなぁ…」
ピピッ。
幸太のスマホがなった。
「はい、樫木です」
(…やっと電話が繋がったのね幸太さん)
聞いているだけでぞっとする声…電話の相手は美和だ。
(幸太さん、そろそろ結婚式挙げない? もう誰も邪魔する人はいないわ。幸太さんも、これ以上事務員が減ってゆく姿は見たくないでしょう? )
「…どうゆう事だ? 」
(受付の二人。私消したのよ、若いってだけで受付嬢なんかしちゃって。綿費の方がよっぽど受付嬢に相応しいのにね)
「お前…何を言ってるのか、自分で分かっているのか? 」
(もちろん分かっているわ。邪魔する奴は、相手がだれであろうと消すだけ。幸太さん、あのデブスの秘書いなくなったそうね? やっと私の席が空いたわ、嬉しい。ねぇ幸太さん、迎えに行くわ。そして私達の新居に住みましょう)
全く話が通じない美和との会話に幸太は呆れるしかなかった。
美和は一方的に喋って電話を切った。
幸太は美和との会話を録音していた。
やれやれ。美和本人が動き出したと言う事は、もう切羽詰まって来たと言う事だろう。
18時になり幸太はやっと仕事が終わった。
受付嬢が二人も殺害され、騒然となった一日だった。代わりの受付嬢をと考えたが、また狙われる可能性もある事から、暫くは人事から男性を受付に置くことにした。男性だから狙われないと言う確証はないが、女性よりは狙われにくいと考えた。
少し疲れを感じながら幸太は家に帰るために駅前を歩いていた。
駅前にあるシティーホテルの近くを通り過ぎた時。クライアントのフローレンシアの姿を見かけた。
離婚問題で依頼に来たフローレンシアだったが、美紀が死亡したと連絡が入り離婚ではなく死別と言う形で戸籍上なってしまった。持ち逃げされたお金は取り戻すことができない状態で「縁が切れたなら、それでいいです」とフローレンシアが言った事から案件は終了した。
仕事帰りのようでフローレンシアは紺色のスーツ姿。
だが…
「ん? 」
フローレンシアの隣りにスラっとした清楚で綺麗な和服の女性が一緒にいる姿が目に入って立ち止まった。