「…ごめんなさい。…ずっと、勝手に誤解していて…」
「謝る事はありません。誤解が解けたなら、それでもう終わりです。もう、過去を見るのはやめましょう。今ここから、未来を見てゆきませんか? 」
「未来を? 」
「俺達には未来しかありません。亡くなった愛香さんだって、今生きている俺達が幸せになってくれることを願っています。俺が、彼女とずっと一緒にいたのは。あなたの事を聞いていたからです。何度も、お姉ちゃんに会ってって言われました。でも、俺は自信がありませんでした。だから、あなたに相応しい男になったからと決めて。…あなたが派遣社員として、事務所に来てくれると知って嬉しくて。絶対に秘書にして傍にいてもらうと決めていたのです」

 そっか…だから急に…。

「…妹より…私は醜くなくてはならないといつしか思うようになっていました…。体が弱い妹に、父も母も夢中で…私は一人でも大丈夫だと思われていたから。強くなくてはいけないと思っていました…」
「やっと、自分の本心に気づけましたね。それでいいと思います。もう、誰に遠慮する事もなく本当のあなたで生きてゆけばいい。それだけです」
「本当の私…? 」
「俺の事ずっと見ててくれた時の、あなたに戻ればいいだけです。俺も、あのとき遠くからあなたの事を見ていました。だらから、姉にあなたの情報を聞いていたのです」

 ああ、そう言えば麗華さんがそう話していたっけ…。

「ちゃんと、聞こえていました。俺が、祖父の家に養子に行くとき「行かないで」って言ってくれた声」
「え? 聞こえていたのですか? 」
「はい。後部座席からずっと、遠ざかるあなたを見ていました。車を止めて戻りたかったけど、ここで戻ってしまったら俺は強くなれないって思って…」
「…聞こえていたのに…。私は置いて行かれたと思って、ずっと寂しかったです…」

 俯いた愛良の顎をそっととった幸太。

「もう何も言わないで…俺達はきっと、ずっと両想いだった…それが事実だから…」

 両想い? …
 
 ふわりと暖かい唇が重なった…。
 体中にゆっくりと優しい電流が流れてくるようで、愛良は体の力が抜けてしまった。





 これがキス? …なんて優しいの? 全てを包み込んでくれるようで…
 重なった唇が吸い上げられ、何度もついばまれてゆき激しく求められてゆく。それに応えるように愛良は幸太にギュッとしがみついていた。
 決して強引ではない優しくて激しいディープキスを繰り返された愛良… …。
 何も考えられず頭が真っ白になりそうでフワっと空を飛んでいるかのような気持ちだった。