「あの。行き先なのですが、俺の家でもいいですか? 」
運転しながら幸太が言った。
「いいのですか? お邪魔しても」
「はい。今夜は祖父は町内の旅行で出かけてていないので気兼ねしないで下さい」
「そうですか…」
自宅にお邪魔するのは気が引ける。でも、どこかで外食していると美和に見られると非常の危険だ。
自宅デート? の方が安全なのかもしれない。
車で15分。
総有市の高級住宅が立ち並ぶ住宅地の一角に、日本家屋を思わせるような大きな家が建っている。
白い外壁に囲われ、どこかのお屋敷のような門構えがあり広い一軒家。
庭は池や松の木があり風流である。
車庫に車を止めると愛良を家の中へ案内する幸太。
両開きの扉を開け家の中へ入ると長い廊下が続き、両脇には広い和室がある。
廊下を歩いて奥にリビングとキッチンがある。
広々としたリビングとキッチン。
6人かけの食卓があり、大きなテレビと窓際に観葉植物が置いてある。カーテンは爽やかなグリーンで、ゆっくりくつろげる黒皮の高級ソファーが置いてあり、ガラスのテーブルがある。
「ここに座って下さい」
食卓の椅子に愛良を案内した幸太。
木製の椅子に柔らかいクッションが敷いてあり、座り心地がとてもいい。
「少し待って下さい。すぐに用意しますから」
もう支度をしてあったようで、幸太は手慣れた手つきで準備を始めた。
ジュージューをお肉を焼く音がして冷蔵庫に用意してあるサラダを出して食卓にならべ、綺麗なブランド品のお皿に焼いたお肉を乗せて、お鍋に作って置いた総菜をさらに盛り付けて。
並べられた料理を見ると、まるでどこかのレストランにでもいるかのようだ。
テーブルの中央には綺麗な赤いバラの花が一輪飾ってある。
「遠慮しないで食べて下さい。俺の作った料理で、申し訳ないですが。外食は危険かと思ったので」
「いいえ、嬉しいです。一人暮らしで、外食が多いので誰かに作ってもらった手料理は久しぶりです」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
頂きますと手を合わせて幸太と愛良は食べ始めた。
焼いてもらったステーキはとてもいい具合に焼けていて、味付けも良く、まるでAランクのお肉を食べているようだ。サラダも新鮮な野菜でドレッシングもて作りなのかとても美味しい。総菜もしっかり味が染み込んでいて、どれを食べても美味しいとしか思えなかった。
「とても美味しいです。お料理得意なのですか? 」
「子供の頃から良く手伝っていたので。俺の母は、足が不自由で長時間キッチンに立てなかったので手伝っていたのです」
「そうだったのですか。でも、これだけ料理ができる男性っていいですね。今は共稼ぎが多いですから」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
他愛ない話をしながら、ぎこちなかった雰囲気もすっかりなごんできた。
食事が終わると愛良が洗い物をすると言ったが、食器洗浄機があるから気を使わなくていいと幸太に言われた。
時刻は21時を過ぎようとしていた。
「そろそろ帰ります。遅くまで、お邪魔してすみませんでした」
「じゃあ…送ります」
「いいえ、タクシーを呼びます。お疲れだと思うので、ゆっくり休んで下さい」
そう言って玄関へ向かった愛良。
「ちょっと待って下さい」
廊下を歩いていると幸太が追いかけて来た。
「あの…」
呼び止めた幸太だがうまく言葉が出てこなくて、口元でごにょごにょとしていた。
「どうかしたのですか? 」
「あ…あの…」
モジモジしていた幸太は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「行かないで下さい! 」
え…。
行かないで下さいと言った幸太の言葉に愛良は遠い昔の記憶がフラッシュバックしてきた。
それはまだ愛良が小学生6年生の時だった… …。