「愛香さんが最後に言った事を伝えたくて…。お姉ちゃんに「幸せになって、有難う」と何度も言っていたのです」
「愛香が…」
「俺。愛香さんが亡くなって、角膜をもらって視力を取り戻しました。彼女が俺に角膜を移植してほしいと言い残したので」

 愛香が…角膜を…。
 彼の目には愛香が残した角膜が残っているというの? 

 愛良は幸太の目をじっと見つめた。
 まっすぐにみている幸太は純真な目をしている。その目に嘘など一欠けらもない。

「…もっと早く伝えればよかったです。ごめんなさい…本当に…」
「何度謝れば気が済むのですか? もういいですから…」
「俺じゃないって、信じてもらえないかもしれませんが。俺じゃないんです」
「もう、分かりました」

 この人はとっても不器用だけと人一倍優しい。愛香が好きになる気持ちも分かる。私だって…。

 一瞬期の迷いが生じた愛良だが「ダメ! 」と自分に言い聞かせた。
 
「あ、そうだ」

 幸太が持ってきた紙袋の中から淡いピンク色の薄手のショールをとりだして愛良の肩にそっとかけた。
「よかった、とっても似合っています」
 
 肩にショールをかけてもらうと暖かいぬくもりを感じた。季節は暖かくなり気候も良くなっているが、まだ寒い日もあり夜になると冷え込んでくると思っていた。パジャマを着ていても起きているときちょっと寒さを感じていた。
 
 こんな色なんて身につけた事なかった…。
 
 幸太が言う通り愛良にとてもよく似合いう色だ。淡いピンクが愛良の優しさを引き立たせてくれている。

「まだ寒い日がありますから。これなら、簡単に羽織る事ができるので使ってください」
「すみません、気を使わせてしまって」
「俺が好きでやっている事なので、全く気にしないで下さい」
「はい、有難うございます」
 愛良は素直にお礼を言った。

「あの。退院したら、俺と…ご飯に付き合ってもらえませんか? 」

 え? もしかしてこれって…デートの誘い? まさかねぇ…。

 幸太は真剣な目をしているが耳まで真っ赤になっていた。その顔を見ていると、初めて恋人をデートに誘う高校生の様に見えた愛良は、幸太可愛く思えて小さく微笑んだ。

「私…かなり大食いなのですが。それでもいいのですか? 」
「はい、全然構いません。俺も結構食べますから」

 緊張した面持ちから満面の笑みの変わる幸太。
 
 最後に一度だけ…どこかで彼に惹かれている自分に正直になろうと愛良は思った。
 

 

 それから愛良が退院するまで幸太は毎日時間が許す限りお見舞いに来てくれた。
 会話はぎこちなくても共通の愛香の話題で盛り上がったり、時々英会話の話しで盛り上がったりと初々しく感じた。
 話していると愛良は見かけよりもとても素直で正直。ハッキリと物事を言うタイプでしっかりしている。幸太は職業柄しっかりしているように見えても、中身は不器用で言いたいことがまとまらず言葉にできない事も多い。だが芯が強くて頼りになる。

 この人とずっと一緒にいられる女性は幸せだと思う。
 愛良はそう思うようになっていた。