翌日。
 
 目が覚めた愛良は自分で起き上がろうとしたが背中に痛みを感じて起きる事が出来なかった。ベッドを起こして何とか洗面とトイレを済ませる事が出来たが一人ではかなり苦痛に感じた。
 
 朝食の時間いなると配膳されてきた。
 病院の朝食にしては美味しそうなパンが用意されている。クロワッサンにベーコンがはさんである。そしてウィンナーと卵焼き。コーンスープ。珈琲も美味しくて、愛良は久しぶりに美味しい朝食を食べられたと喜びを感じた。

 
 暫くすると検温の為看護師が巡回してきた。
 背中のシップを交換してもらい一段落した愛良は、ちょっと眠気に襲われてウトウトしていた。

 
 コンコン。
 ノックの音がしたが愛良は気づかず眠っていた。

 
 そっと扉を開けて入って来たのは幸太だった。

 眠っている愛良を見ながら歩み寄って来た幸太は、顔色が戻っている姿を見てほっとした。
 ふとみると、愛良は病院着のままだった。
 その姿を見た幸太は、そのまま病室から出ていった。



 
 お昼近くになり、愛良は目を覚ました。
 こんなに眠ったのは久しぶりで何となくスッキリ目が覚めていた。

 暖かい日差しが窓から差し込んできて穏やかな時間を感じる。

 
 コンコン。
 ノックがして扉が開いた。


 入って来たのは幸太だった。

「こんにちは末森さん。具合はどうですか? 」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。1週間ほど入院と言われましたが、もう大丈夫です」
「どこか痛んだりしませんか? 」
「大丈夫です。ちゃんと処置してもらっているので」
「そうですか。あの…これを使ってください…」

 ちょっと恥ずかしそうに幸太が差し出したのは数個の紙袋。

「着替え、用意できていなかったようなので」

 あ、そう言えば突然入院になって着替えなんか考えていなかった。病院の売店にも売っているとは聞いたけど、品ぞろいはどうなのか不明で…。

 愛良は渡された袋の中を見た。
 
 袋の中にはパジャマとタオル類が入っている。そしては織物も入っていた。

「…お気遣い感謝します。…退院したらお支払いしますので、レシートか何か頂けますか? 」
「いや、いいです。これは、職場内のトラブルに巻き込まれたのですから。責任取らせてください」
「でも私は、ただの派遣社員ですから。ご迷惑をおかけすることはできません」
「迷惑だなんて、そんな言い方やめてください。そんないい方されたら…俺がもたないので…」

 俺がもたない…そう言った幸太はほんのり頬を赤くしていた。
 そんな幸太を見るのが辛くて愛良はそっと視線を反らした。

「末森さんが怪我をしているのではないかと思ったら、心臓止まりそうでした。騒然としている現場の様子を所長室から見て、急いで駆けつけましたが。既に警察が来ていて何もできないままでした。…末森さんには、金澤さんの事ですごく嫌な思いをさせているのに。また巻き込んでしまったと思うと…胸が張り裂けそうなくらい苦しかったです。…このくらいの事はさせて下さい。…」

 幸太の声が上ずっていた。
 きっと本心を言っている。だが今の愛良にはその気持ちを受け取る余裕がなかった。

「分かりました。…有難うございます…」
 
 視線を反らしたまま愛良は答えた。

「足りないものがあれば教えて下さい。用意します」
「ご心配なく。病院の売店でも、購入できますので。それに、1週間ですからこれだけあれば、十分だと思います」
「分かりました。それから、昨日一緒に被害にあった総務の事務員には。今日づけで退職してもらいました」
「え? どうしてですか? 」
「我が事務所に、人として礼儀がない人は必要ないからです」

 人としての礼儀? もしかして彼女が私にお礼を言わなかったことを言っているのだろうか?

「様子が気になり総務に行きました。その時、あの女子社員が話をしているのを聞きました。末森さんに感謝するどころか、人として道に外れた事を話していたので。辞めてもらう事にしたのです。末森さんが庇ってくれなければ、彼女が大怪我をしていた。いや、怪我じゃなくてもしかすると死んでいたかもしれないのに。その事に感謝をすることもない人に、事務所にいてもらいたくないのです」
「そうでしたか…」
「末森さんが戻ってきた時に、働きやすい環境にしておきます。今はゆっくり休んで下さい」
「はい…」

 
 あの女子社員は確かに人として問題があると感じた。身代わりになった人にお礼を言わない。当然の様に黙って帰ってゆく姿。そんな彼女を見ていると美和と変わらないと思えた。

 

 幸太が帰った後。袋の中身を見た愛良は普段選ばないタイプのパジャマが入っていて驚いた。
 部屋ぎ兼用のスェットのようなものだが、ピンクの上下のものと花柄のものがはいっている。靴下も入っていて長めのタイプと短いタイプが入っている。カーティガンも明るい色でサイズはフリーサイズ。
 広げて見ると小さく見えて着られないような気がしたが試しに羽織ってみると意外にも着る事が出来た。

「少しやせたのかな? 」
 そう呟いた愛良。

 
 その頃警察では、金髪の男と先日逮捕されたフードの男からの自供で闇バイトを利用して殺人をしてみたい人と掲載があり報酬100万と書いてあり連絡をとり女とやり取りをして犯行に及んだことが判明。
 やり取りの分析から掲載したのは金澤美和であることが判明。
 
 だが警察が詳しく調べると金澤美和は既に死亡している事が判明した。しかも17年前に既に死亡していると。死亡届は出されていないが、遺体がみつかっているようだ。
 誰かが成りすましている可能性もあるとみなしているが、住所も契約者も金澤美和の名前が出てくる。

 一体どうゆう事なのかもっと掘り下げて調査を開始している。
 とりあえず男にお金を渡していた現場が防犯カメラに捉えられている事から、金澤美和を指名手配した。


 美和を指名手配した事でニュースにも大きく報道された。
 過去にも傷害事件や行方不明事件に深く関わっている美和。顔写真も大きく報道されている。


 樫木法律事務所にも警察から調査が入ったが、既に美和は解雇状態であることを告げた。

 

 駅前の交差点。
 黒い大きなつばの広い帽子をかぶりサングラスをかけて、髪を金髪にしている女性が立っている。黒いラメーの入ったブランドの服に身を包んでいる姿は、どこかのホステスのようだ。

「…誰も私を捕まえられない…」
 口元で怪しく微笑みサングラスを外した女性。
 素顔を現わした女性は美和だった。
「私は美和。…美和になったの…」
 怪しく微笑みを浮かべた美和はそのまま歩いて行った、

 美和になった…そう呟いたその真相は?