(デブスがきた! )
(あんなデブでよく生きていられるな)
(太ってなくてよかった)

 通り過ぎる度に嫌味や悪口を言われた。どうせデブだからと思って黙っていた愛良。
 時々石を投げてきたり靴を投げてきた奴もいて、直接的攻撃を受けた時は思い切りやり返していた。

 家庭の事情もあったが、こういった攻撃が嫌で愛良は大学は海外へ進学を決めた。海外へ行けば体系の事でいじめられることもないし、こんな奴らとは縁が切れると思ったのだ。

「幸太、本気で貴女の事好きみたいね」
「それはありえません。彼は…私の妹と付き合っていたのですから…」
「そっか。もしかして…妹さんに、あなたの事を重ねて見ていたのかもしれないわね。」

 そうじゃないと思うけど…。

「幸太と私がどうして苗字が違うのか知っている? 」
「知るわけないじゃないですか。私はただの派遣社員ですから」
「妹さんから何か聞いていない? 」
「いいえ。何も…」
「そっか。そこまで話していなかったのかな」

 なんだろう…。
 モヤっとした気持ちが込みあがってくる。これは、理由が知りたいって事? 私には関係ない事なのに…どうして知りたいの? 

「幸太はね、お爺ちゃんの家に養子に行ったの。母のお爺ちゃんが、有能な弁護士で大手事務所の所長だけど。一人娘の母が結婚して家を出た事で跡取りがいないって、相談してきたのを聞いていてね。それなら自分が養子に行ってお爺ちゃんの子供になるって言い出したの。父と母は大反対したけど、幸太が絶対譲らなくて。末っ子だったけど、幸太はしっかりしているから父も母も手がかからないって誉めていたわ。でも私はきっと…幸太はもっと甘えたかったんじゃないかな? って思っているの。末っ子だから、一番冷静に物事を見ていたから。きっと、母の事を気遣っていたんだと思うの」

 お母さんに気を使っていた。
 それは私も同じだった。お母さんは心臓が弱くて長生きできないって言われていた。元気よく働いていても、顔色が悪く良く寝込んでいた。愛香は母と同じ心臓が弱くていつも寝込むことが多かった。病気がちな母と妹。そんな二人を見ていて負担をかけてはいけないと思っていた。だから、私が頑張らないといけないと思って…少しでも母の負担を減らさなくてはいけないと思って海外の大学へ進学した。でも、大学在学中に母は心臓発作で亡くなった。残された愛香と父が心配だったが、今戻ったら負担が増えるだけだと思ってそのまま大学を続けて卒業まで戻らないと決めた。しかし、卒業式を終えた時。父が過労で倒れてそのまま亡くなった。

 母の最期も父の最後もみとる事が出来なかったことを愛良ずっと後悔していた。
 残された愛香をまもってゆくことが自分の義務だと思って生きてきたのだ。

 なんだか幸太と自分が似ている部分があると愛良は思った。