入って来たのはスラっとした綺麗系の優しい目をした女医。ふんわりしたショートボブが魅力的で、きりっとした目元に見覚えがあるように思える。

「初めまして。私、総有総合病院で外科部長を務めています。花村麗華です」
 いいながら首からかけている名札を指さした麗華。
「背中の怪我。結構深かったですよ、1週間ほど入院して頂きます」
「入院ですか? 」
「ええ、動くことも辛いと思います。それに、シップの取り換えも大変ですからね」
「…そうですか…」

 麗華はベッド脇の椅子に座って愛良をじっと見つめた。

「とっても綺麗な顔立ちしているのね」
「え? 何を言うのですか…私…」
「幸太があんなに必死な顔をしているのは、初めて見たから」

 幸太? 所長を名前で呼んでいる…この人って…。
 
 愛良が驚いた目で見ていると麗華はちょっと悪戯っぽく笑った。
「驚かせてしまったわね、ごめんなさい。幸太は私の弟なの」
「え? そうなのですか? 」
「ええ。あの子は、小学校二年生の時にお爺ちゃんの家に養子に行っているから。私とは苗字が違うけどね」
「そうですか…」

 麗華は愛良をじっと見つめて納得したように頷いた。

「そっか…幸太はやっぱり面食いなんだ。離れて暮らしていたけど、私とは連絡とりあっていたの。気になる女の子がいて、その子の様子を知りたいって言っててね。私より2つ下の子だから、顔を見る機会も多かったし。ねぇ、貴女は総有小学校だった? 」
「はい…」
「中学は総有中学? 」
「はい、そうです」
「高校は総原高校? 」
「はい…」

 なんでそこまで知っているのか? と愛良はちょっと警戒した目を向けた。

「ごめんなさい。私も同じだったから。高校は総原高校で大学はN大学医学部に進学したの」
「そうだったのですか…」
「私は年上だからあまり接点はなかったけど。貴女の事はよく覚えているわ」
「え? どうしてですか? 」
「だって、貴女はイケメンキラーって言われていたもの。学校中のイケメン男子が、みんな貴女に夢中で他の学校からも見に来るくらいだったのよ。気づいていなかった? 」
「いえ…ただ、デブだからからかっているだけだと思っていたので」
「違うわよ。みんな、貴女に構ってほしくて意地悪していただけ。抜け駆けするなって言い合っていたから、誰も貴女に告白する事もできなくて。意地悪言うときは唯一許されるから、そうして頂けよ。言った後にすごく後悔しているから。素直に告白すればいいじゃないって、同級生の間でも言っていたくらいだもの」

 あの意地悪な言葉がそれってありえない。