そんな様子を所長室の窓から見ていた愛良がいた。
「あの女…こりてない様ね…」
何となく嫌な予感を感じた愛良。
幸太が戻ってきて仕事の続きを始めた。
その後は静かな時間が過ぎて行った。
定時になり愛良は帰社した。
1階へ降りてくると幸太と話していた女子社員が歩いていた。
可愛い系の若い女子社員。これからデートにでも行くのか、コンパクトでメイクをチェックして髪を直しながら歩いている。
すると…背後から黒いフードの者が近づいてくるのが見えた。
愛良は嫌な予感がして駆け寄った。
シュッと! 鋭い何かが女子社員に振り下ろされた。
バコン! 鈍い音がして女子社員は足を止めた。
「え? …末森さん? 」
女子社員が振り向くとそこには痛みで蹲っている愛良がいた。
状況が把握できない女子社員にまたフードの者が襲い掛かって来た。
「キャーッ! 」
悲鳴を上げた女子社員は、完全にやられると思いギュッと目をとじた。
が…
ドサッ! と地面に叩きつけられるとがして、恐る恐る目を開けると。
そこにはカツを入れられて気絶しているフードの者がいた。
どうやらフードの者を倒したのは愛良のようだ。
スマホを取り出して愛良は電話をかけて警察を呼んだ。そして倒れた者のフードを取った。
フードを取られると金髪の若い男だった。
間もなくして警察がやってきて金髪の男を連行した。
事情を聞きたいと言って愛良と女子社員に署まで同行してほしいと言われて素直に従う事にした。
警察署で事情を聞かれた愛良は背中の痛みを我慢していた。
男は棍棒のようなものを凶器で持っていて、女子社員を狙ったが庇った愛良が出てきて愛良の背中を殴ったようだ。
失敗したと思った男はもう一度女子社員に殴りかかろうとしたが、愛良が逆に男を取り押さえてカツを入れて気絶させたのだ。
2時間ほど事情徴収をされて解放された愛良。
女子社員は特に愛良にお礼を言う事もなく、そのままタクシーで帰って行った。
特にお礼を期待していたわけじゃないから構わないけど…常識のある人なら助けてもらって何も言わないなんてことはないだろう。
愛良はそう思っていた。
とりあえず殴られた事で被害届は出している。ただ、現段階では裏で美和が手を回していたかどうかは不明だった。
背中の痛みが増してきて愛良もタクシーで帰ろうと思ったが、待っているタクシーがいなかった。
しょうがない、ゆっくり帰れば痛くても大丈夫かな。
愛良は行くりと歩き出した。
「末森さん」
警察署の駐車場へ歩いてくると声がして愛良は振り向いた。
声をかけてきたのは幸太だった。
特に知らせていないけど、オフィス付近で起こった事だから耳に入ったのだろうと愛良は思った。
「大丈夫ですか? 」
歩み寄ってくる幸太が霞んで見えて、ダメだ! と意識をしっかり保った愛良。
「大丈夫です。ご心配おかけしました」
答える声に力がない愛良。だが、表情は平然と保っていた。
「大丈夫だなんて、言わないで下さい。怪我していませんか? 」
「していません…」
幸太はじっと愛良を見つめた。
「…お姉ちゃんは、弱音を見せないから…。でも、しっかり顔には出ているの辛い時は…。そう言っていました。彼女が」
え? 彼女って愛香の事?
そう聞きたかったが、言葉にはできなかった。
「送ります。もし、怪我をしているならこのまま病院へ行きましょう」
「…大丈夫だって…言っているじゃないですか。…」
イライラしているような痛みをこらえているような、愛良の声が少し強くなっていた。
幸太はそっと愛良の手を握った。
「…もう、肩の荷を降ろして下さい。俺が守りますから…」
「はぁ? 」
「末森さんが強い事は知っています。でも…人は支え合って生きているのです。…誰かに頼ってもいいじゃないですか。目の前に、末森さんの事を守りたいと思っている人がいるなら。甘えてもいいじゃないですか」
何を言っているの? 甘えるなんて…。考えた事が無かった…。
でも…
クラッとなり倒れそうになった愛良を幸太がそっと支えた。
「あ…ごめんなさい…」
謝る愛良をそっと抱きかかえた幸太。
「あ。…おろして下さい。重いですから…」
「全然重たくないですよ」
そのまま歩き出した幸太は、乗ってきた車に愛良を乗せた。
ワゴンタイプの2000㏄の車の後部座席は広くて、愛良が横になって乗っていても余裕がある。
「このまま病院へ向かいますね。」
ドアを閉めた幸太は運転席に乗り込んだ。
結構ですと言いたい愛良だが、声を出す余裕もなくなっていた。
結構辛かったのかもしれない…なんだか
肩の荷が降りたような気がする…。意識が薄れゆく中そう思った愛良。
愛良が意識を取り戻したとき病室にいた。
背中の痛みは今は感じない。処置されたようで楽になっていた。
コンコン。
ノックの音にハッと目を覚ました愛良。
「失礼します」