「彼は私の運命の人。邪魔する女は全員ストーカー。ストーカーは私が退治し、彼を守るのよ」
 彼女を突き落としながら、涼しい顔で勝ち誇ったように笑う女。
 白昼堂々、人ごみの中で転がる彼女を、笑いながら見下ろしていた。

「どうしたの? 何? 何が起こったの? 」
 彼女と共にいた彼は、真っ暗な闇の中で彼女の悲鳴と大きな物音しか聞こえず、
 周囲の悲鳴と「人が落ちた!」という叫び声から、隣にいた彼女が転落したことだけを察し、見えない目で階段を下りていった。

 救急車で彼女に付き添う彼。
 運ばれながら、彼女は「お姉ちゃん…幸せになって…ごめんね…」と繰り返す。
 暗闇の中、彼女の姉への切ない思いが彼に痛いほど伝わる。
「心配しないで、必ず幸せにするから。光が見えなくても、あの人を宇宙一幸せにすると約束する」
 消えそうな息の中で、彼女は彼に微笑む。

 救急車で運ばれた彼女は、脳挫傷と出血多量で亡くなる。
 彼女の死にショックを受けた彼は、意識を失う。

 しかし、彼が目覚めた時、光を取り戻していた。

 まぶしい光が差し込み、今まで見えなかったものが見えるようになる。
 その光は、彼女が命と引き換えに彼に与えた大切な贈り物だった。

「彼女を突き落としたあの声の女を、必ず見つけ出す。そして、あの人を宇宙一幸せにすると約束するよ…」
 
 彼は誓いを立ててから5年後、祖父の遺志を継ぎ、弁護士となった。


総有市は、都会でも田舎でもない、活気ある街です。駅前は賑わいを見せ、高級オフィスビルと大型ショッピングモールが立ち並び、電車が行き交います。朝夕は、通勤や通学で人々が溢れかえります。

高級オフィスビルには、名だたる企業が入居し、毎日、高級スーツを身にまとった人々が忙しなく行き来しています。


 高級オフィスビルを貸し切る大きな法律事務所の所長となった彼。

 彼の名前は樫木幸太で、現在27歳。大学を卒業してすぐに弁護士となり、2年間の留学を経て交際弁護士に成長し、日本に戻ってきた。祖父・樫木隆三の遺志を継ぎ、樫木法律事務所の所長となった彼は、10人の弁護士と20名のパラリーガルを率い、総勢50人のスタッフを抱える大きな事務所を運営している。
敏腕弁護士として名高く、全国から依頼が絶えないが、幸太は自分が気に入った案件のみを受け、他の弁護士には多くの仕事を任せているようだ。
所長室で仕事に励む幸太は、柔らかな茶色のサラサラヘアと鋭い目つきが魅力のイケメンで、学生時代から非常にモテ、交際の申し込みが後を絶たない。事務所の女性スタッフは皆、幸太を狙っており、「誰とも付き合う気はありませんので、そのような話は一切お断りします」と彼は言っている。
スラリとした長身で188cmのモデル級のスタイルを持つ幸太は、ただ歩いているだけで注目を集める。

 所長室でパソコンに向かっていた幸太は手を止めてそっと立ち上がった。そして、窓から外を見た。
「そろそろ…あっ、来た! 」
 低くて渋い声の幸太。
「待っていたよ」
 嬉しそうに笑い浮かべた幸太は急ぎ足で所長室を出た。



 樫木法律事務所が入っている高級オフィスビルの前に一人の女性が立っていた。

 その女性は太っている。
 世間で言われるデブの類いである。
 黒いスーツに身を包みスラックスに黒いパンプス姿の彼女は末森愛良と言う。
 デブな彼女だが…何故か彼女が立っている姿をイケメン男性が振り向いて見てゆく。

「あの女…いい女じゃねぇ? 」
「ああ。すげぇ肌艶いいよな」
「それに色っぽくないか? 」

 言われてみると確かにそうだ。
 太っているが肌はつやつやしている。そして着ているスーツは体系のせいもあるがピチピチで体のラインがハッキリ判る。白いブラウスの胸元が大きく開いていてチラッとブラが見える。そのブラは清楚な白なのか、チラチラとレースが顔を出している姿はエロスが醸し出されている。
 肩まで届く綺麗なブラウンの髪を後ろで束ねて白いシュシュで止めているが、おくれ毛が肩にひらひらとかかる姿は胸の谷間をくすぐっているようだ。
 
 彼女は末森愛良。現在33歳で独身。ただの派遣社員のようで今日は樫木法律事務所に派遣されてやってきたようだ。
 特別なお金持ちでもなく、既に両親も他界しており天涯孤独の身。
 顔立ちは浮腫んでダンゴ鼻で黒縁メガネで二十顎。どこから見ても地味なデブスに見える。


 樫木法律事務所のドアの前で深呼吸をした愛良。
 彼女は胸に重たい感情が込みあがっていた。それは…