全く離れようとしないNAKIに困り果てていると、NAKIのスマホから着信音が鳴り響く。



「ん〜・・・なにぃ・・・?」



モゾモゾと動いて枕元に置いてあったスマホを手に取るNAKI。



良かった、これで解放される・・・そう思ったのがバカだった。



「はい・・・もしもしぃ・・・?」



片手で抱きついたまま電話に出たのだ。



いやいや!!そこは手を離してよ!!



そんなツッコミをしてる私の事なんか気にせずに、そのまま電話をし続けるNAKI。



とは言っても、「ん」とか「んー・・・」とかしか言わない。



まだ寝ぼけているのかな・・・可愛いなオイ。



「ん〜・・・ファンの子の家・・・」



『“はぁあっ!?”』



電話口から聞こえてきた、誰かの声──・・・。



近くにいる私にもうるさいほどに聞こえてきたから、耳に当ててるNAKIはもっとうるさかったんじゃ・・・。



「うるさ・・・耳キーンってする・・・」



耳からスマホを離しているNAKI。



やっぱりうるさかったのね・・・。



「・・・ん〜・・・?大丈夫だと思う・・・うん・・・わかった・・・。ねぇ、凛・・・電話変わってって・・・」



「はぁ!?電話!?」



色々喋ったあと、私にスマホを渡してくるNAKI。



電話変われってどういう・・・!?



「ほらぁ・・・早くぅ・・・」



「あ・・・はい・・・!」



状況を飲み込めないけど、恐る恐るNAKIから電話を受け取って耳に当てた。



推しのスマホに触っちゃってるけど・・・これヤバくない!?



「も、もしもし?」



『“急にごめんな。バイオレットフィズのリーダーの“RAI(らい)”なんだけど──”』



「は!?RAI!?なんで私なんかに電話を!?」



叫び出しそうになる中電話に出ると、通話口にはバイオレットフィズのリーダーであるRAIだった。



ど、どういうこと!?なんでバイオレットフィズのRAIが私に電話をかけてるのWhy!?



NAKIを家に泊めただけじゃなく、バイオレットフィズのリーダーとも電話したとか、私殺されちゃうって!!



『“NAKIが急に悪ぃな。いつもは俺かKAZU(かず)の所に泊まるんだけど昨日はそうはいかなくてな。知ってる奴に泊めてもらえって伝えたらこうなっちまった”』



「だから、会ったことのある私の所に・・・」



どうして私のところに来たのか不思議でしかなかったけど、そういう経緯だったのね。



でも、ライブや握手会で会った事がある程度の人を“知り合い”認定しちゃうNAKIが可愛いと思っていいのか、怖いと思った方がいいのか・・・。



『“それで、NAKIを迎えに行くのに泊まった場所知らなくてよ。聞いたら君の家だって言うから直接聞くしかなくてな。だから電話を代わってもらったんだ”』



「そういうことでしたら──」



私は、電話口で申し訳なさそうにしているRAIに私の家の住所を伝える。



防犯の観点から教えるのは良くないかとも思ったけど・・・そうなると、今日の仕事が出来なくなってお互いに困るだろう。



オタクとして、それだけは避けなければならない。



『“わかった、サンキューな。この後NAKIのこと迎えに行くから、その時にでも礼をさせてくれ”』



「あ、いえ。オタクの身分で推しを泊まらせるなんて贅沢させてもらったんで、これ以上はいりません」



『“ははは、そっか。じゃあ、スマホをNAKIに渡してもらえるか?”』



「わかりました。・・・NAKI、ありがとうございました。電話を──え、寝てる?」



私に抱きついているNAKIを見てみると、すやすやと寝息を立てて寝ていた。



寝るの早!?電話変わってって言われたのに電話出れないじゃん!!



「ちょっ・・・NAKI、NAKI!起きてください」



「ん〜・・・?」



「RAIが電話変わって欲しいって」



名前を何度も呼んで体を揺さぶると、顔を上げるNAKI。



そんな彼にスマホを返した。



「何・・・?あぁ・・・それは大丈夫・・・調べたから・・・うん、わかった・・・準備しとく・・・」



そう言って電話を切ったNAKIは、再び私の腰に腕を回して来た。



私が解放されたのは、それから5分後だった。