中央玉座に皇帝、皇后。そして脇に皇太子、皇女が居並ぶ。皇太子は一人、皇女は腹違いで5人いた。

 真っ赤な絨毯、黄金の天井に、ダイヤモンドのシャンデリア。玉座の背後の高い窓からは、神聖な光のように太陽がふりそそいでいる。  

「宮殿に魔物が現れるなど、前代未聞の事態。すぐに神官たちを呼び寄せ、神の祝福をほどこしてもらおうかの…」

 ロムルス皇国の皇族は、真っ白なプラチナの髪、海のようなコバルトブルーの瞳を持つのが特徴だ。皇帝はその高貴な青い瞳で、騎士2人を見る。

「そちらは今後も厳重に見張れ」

 皇太子レオンは足を組み、肘をつきながら、階下を見ていた。もちろん、その先にはガーネットがいる。

「は。陛下の仰せのままに」

「もうよい、下がれ」

 ルイス卿とガーネットは王の広間を退出しようとした。

「陛下、お言葉ですが」

 レオンの声が響く。ガーネットがふりかえると、金銀珠玉に彩られた冠をかぶり、金糸の衣をまとった美青年がいる。

「そのような危険に今後も遭うかもしれません。次は我々の前にも。ルイス卿とガーネット卿には、よりいっそう最側近として我々の護衛に当たってもらわねば。お許しくだされば、ガーネット卿は外の警備から完全に外し、片時も私の護衛から離れぬようにしたいのです。それほど今回の怪鳥は恐ろしい話です」

 この国の皇子は一人だけである。
 皇太子レオンに何かあれば世継ぎを失い、政権争いで内乱が起きるだろう。レオンは皇后の産んだ正統な一人息子。
 他の私生児である皇女たちとは、その存在の貴重さが異なる。

 皇帝も、この皇太子の意見は大切にしていた。
 それが、不吉な魔女をそばに置くという話であっても。

「まあ、よいが……。ただし、ガーネット卿にはよからぬ噂もあり、心配じゃ。大神官からの祝福をガーネット卿にほどこし、引き続き神の力で魔力を抑え込むがよい」

「はい。陛下のお言葉通り、大神官をすぐにでも呼び、ガーネット卿の魔力を私が抑え込めるようにいたしましょう」

「……あとは、どうじゃ? ルイス卿」

ルイス卿は膝をつきながら、ガーネットに目をやる。

「………。問題ありません。今後、ガーネット卿は我々の部隊から完全に離れ、殿下の護衛にあたらせます」

「団長! わ、私は…」

 ガーネットの言葉は遮られた。

「では、ガーネット卿。今後も頼む」

 レオンは微笑んだ。
 彼の胸元には皇室の紋章が刻まれた首飾りが光る。紋章の中央には、大神官の神聖力が込められた水晶がキラリと光っていた。

(あぁ、私には何の意見も持たせてはもらえないのね)

 ガーネットは口を閉じた。