「ガーネット卿、今日は早いんだな」

 ガーネットは、宮殿の中庭で剣の素振りをしていた。魔法を使う魔女ではあるが、表向きは『白騎士団』の特別枠…… 唯一の女騎士という肩書きだった。
簡単な剣術は、使いこなせるように訓練を受けていた。

「……団長、おはようございます!」

 筋骨隆々とした大男が、快活な笑顔を浮かべて立っている。

「さすが、白騎士団の唯一の女騎士だ」

 『白騎士団』は、ロムルス皇国の皇族の護衛をつかさどる近衛兵集団。多くの者が騎士の家系の貴族の令息であり、『白騎士団』に一族の者が入ることは、家門の名誉であった。血筋が良いことはもちろん、武芸に秀でていなければならない。

「よかったら、手合わせしないか?」

「いいですが、団長の相手はつとまりません」

 このルイス卿は、『白騎士団』の団長で、代々騎士のエリート家系のルイス伯爵家の長男。家族から愛されて育ったらしい彼は、物腰も゙優しく、性格も良く、誰とでもうまく付き合える。
 そんなルイス卿は皇帝の最側近として仕えていた。
 皇太子の側近として仕えるガーネットとは、よく顔も合わせるので、親しく話もする仲間だ。

(団長と会うと、安心する……)

 ガーネットはフフッと微笑む。
 ルイス卿は、この国で孤独なガーネットに、たった一人、優しくしてくれる人間だった。

「ハハ……君がいつものように魔法を使えば、俺なんか歯が立たないが。……さあ、受け止めてあげるから、好きなだけ打ち込みに来て!」

 剣を抜き、ガーネットとルイス卿は向き合った。

「団長、それでは遠慮なくお願いします」