セーラ・リサ・ハーバード。ハーバード公爵家の長女。皇太子の正妃。花のような容姿と、天賦の音楽の才能に恵まれた社交界の華。
 デビュタントでは、セーラ公女自らの演奏で招待客を楽しませた。その艶やかな姿は、聖女なのではないのかと噂された。
 優しい性格の持ち主で、セーラ公女の婿になりたいと名乗り出る令息も多い。ダンスパーティーでは、多くの申し込みが殺到。優しい性格ゆえに断りきれないセーラに代わって、父の公爵が選別するなどした。 

 ハーバード家は、代々皇后を輩出する家門で、皇室とは親戚関係にある。長女のセーラも皇后になるための教育を受けて育っている。

 皇太子の数多くの花嫁候補の中から選ばれ、この国の一番幸せな花嫁になったのだ。

 大神殿で、神官たちの祝福を受け、皇太子と結婚した。白薔薇の花びらが舞う中、2人は聖堂を後にする。

『……レオンさま、私、幸せですわ……』

 横には、ずっと片想いをしていた皇子がいる。
白銀の髪に、真っ青な瞳が、きらびやかな結婚装束とあわさり、幻想的に浮かび上がった。その皇太子の姿に、妃の頰は、ほっと赤く染まる。

『それなら、よかった』

 潔癖で、女性になびかない硬派な性格。皇室の男なら、何人もの側室や妾がいるのが当たり前だ。皇太子は浮ついた話もなく、光が差し込む大神殿の書庫で読書ばかりしているという。

 妻は、この妃ただ一人しかいない。つまり、他の妻たちと寵愛争いや政権争いをする必要もない。自分の子どもが皇室の跡継ぎになり、皇后となる。

 その事実に、妃は夢見ごこちで微笑んだ。

『うふふ……恥ずかしがらなくていいのですわよ。私たちはもう、夫婦なのです』