あれから半年の月日が流れた。

 怪鳥事件以来、厳重な警備体制が敷かれ、平和な時間が流ていた。これといった悪事もなく、ロムルス皇国は繁栄を極めている。宮殿といえば、秋の建国祭に向けての準備に追われていた。

 ガーネットは、皇太子の背後に常に控え、片時も離れなかった。会議の時はもちろん、浴室の時まで、皇太子にお仕えした。
 彼女の勤務態度はまじめで、二人の君臣関係を疑う者はいない。

 ガーネットは宮殿の離れの使用人部屋の一室をかりて住んでいたが、皇太子のはからいで、皇太子の住む宮殿内に住むことにもなった。それは、正妃の住まう離れの宮殿よりも近い。そこまでの寵愛を受けていても、誰も男女の仲だと噂をする者はいなかった。
 なぜなら、ガーネットは常に質素なドレスにマントを深くかぶり、剣を帯び、女性的な部分を全て隠していた。皇太子には淡々と接している。皇太子も、ガーネットを護衛以上に思ってはいない態度でいた。

 宮殿にはきらびやかな女性がたくさんおり、正妃をはじめ、花のような令嬢たちが控えている。

 なぜ赤毛の魔女に心を奪われるのか、そんなこと誰も考えることはなかった。

 ガーネットの容姿は美しいほうだが、カラフルで派手な令嬢たちの前では、顔の細工まで視線は届かない。背景と化したガーネットは、空気のように、日々を過ごす。皇室内だから、面と向かっての誹謗中傷も、聞こえる噂もない。

「政務や学問に忙しく、女を抱くひまがないのだ」

 正妃の侍女には常にそう伝えた。
 他に女ができた様子もないので、侍女はそっくりそのまま信じた。

 だから、まさか、人目を忍んで、皇太子が魔女に心奪われているなど、夢にも思わない……はずだった。

 そう、宮殿内にいる〈2人〉をのぞいて……。