メイナードから話を聞いて以来、ローラは日に日にやつれて行った。食事はろくに取らず、部屋の外にも出ず、誰かが話しかけても静かに微笑んで頷くだけだ。ローラを目覚めさせた張本人であるヴェルデは、メイナードからローラを気にかけるようにと言われていたが、日に日にやつれていくローラを見て気が気でなかった。

「まるで死に急いでいるようにしか思えません……」

 ヴェルデが苦し気にメイナードに言うと、メイナードも神妙な面持ちでうなずく。

「彼女が一体何を考えているのかはわからないが、良い精神状態でないことだけはわかる。目覚めたら百年も過ぎていて、何もかもが無くなり、何もかもが変わってしまっているのだから、当然といえば当然だろう。ヴェルデ、申し訳ないが彼女のことを今以上に気にかけてくれないか。何かあってからでは遅いからね……」



 そして、恐れていたその日はやってきた。


 月の明りだけが辺りを照らす真夜中。静まり返った屋敷の中を、ひとりの女性が裸足のまま、静かに歩いている。玄関を出て、屋敷のゲートをくぐろうとした、その時。

「どちらへ行かれるのですか?」

 まさか声をかけられるとは思っていなかったのだろう。ビクッと大きく肩を揺らし、怯えるように振り返ると、そこには困ったように微笑むヴェルデの姿がある。そして、ヴェルデの瞳に映るのは、寝間着姿のまま裸足でどこかへ行こうとするやつれきったローラだった。