「あなたにとっては不本意かもしれませんが、どうか私のことは警戒なさらないでください」

 ヴェルデがそう言うと、ローラはハッとしてにうつむく。そしてすぐにまた美しいアメジスト色の瞳でヴェルデをジッと見つめた。

「いえ、私こそ失礼なことをしました。国同士が良好な関係を築いているのであれば、それは喜ばしいことです。それに、あなたは私を目覚めさせてくださった恩人です。感謝するならともかく、警戒するなどと。申し訳ありません」

 深々と頭を下げるローラ。そんなローラの姿に、ヴェルデもメイナードも感心したようにローラを見つめた。

「ところで、私は百年も眠っていたとのことですが、……あの後、エルヴィン様や国は、どうなったのですか」

 ぎゅ、とドレスの裾を握り締め、ローラは静かに尋ねた。

「順を追って説明しましょう」


 ローラがエルヴィンを庇い眠りについた後、犯人探しが行われ犯人は無事捕まった。ローラが目覚めるまで他に妃はとらないと宣言したエルヴィンだったが、それを国が許すわけもなく、その後ローラに代わる妃があてがわれ、無事に結婚、子供をもうけて幸せに暮らした。

「その後も血筋は問題なく受け継がれ、現在、私がこの国の第一王子として王位継承権の第一位を持っています」

 そう言って、メイナードは深々とお辞儀をした。

「そう、でしたか。エルヴィン様はお幸せになられたのですね。この国も、今日まで無事に続いて……よかった、本当によかった」

 静かに、だが心の底から安堵したような声でローラは呟き、メイナードへ笑顔を向けた。その笑顔は嬉しそうなのにどこか寂しそうで、両目にはうっすらと涙が浮かんでいる。その顔を見たヴェルデは胸が苦しく、押しつぶされそうだった。