「美しいだろう。彼女の名前はローラ・ライラット。ずっとこうして百年も眠り続けているんだ。どうだろう、起こしてあげられそうかな?」

 メイナードに促されて、ヴェルデは静かにベッドのそばへ足を運ぶ。魔力を感知すると、姫にはやはり魔法がかかっていた。

「どうやら対象者を殺す目的で放たれた魔法のようですね。……この方の魔力が上回っていたために死には至らなかったようですが、魔力の影響変化で攻撃魔法が眠り魔法へと変換されてしまったようです」

 そう言ってヴェルデはメイナードをじっと見つめる。

「私であればこの方を起こすことは可能です。……ですが、本当によろしいのですか?隣国の一魔術師が、過去とはいえ、この国の妃殿下になるはずだった方を起こしてしまうなんて」

 同盟を結んでいるとはいえ、未だに相手の国を良く思わない人間は少なからずいるものだ。もし眠り姫を起こしてしまい、万が一両国の間に溝が生まれてしまうとすれば一大事だ。

「この国の第一王子として誰にも文句は言わせないよ。それにこの件については王にも許可を取ってある。できるのであれば一刻も早く眠り姫を起こしてあげたい」
「……わかりました。そういうことであればこちらとしてもやらざるを得ませんね」

 メイナードは静かに頷いて眠り姫の方へ顔を向ける。そして、片手をかざして静かに瞳を閉じた。

 風もないのにの髪の毛がふわり、となびき始め、周辺に光の粒が沢山あらわれる。眠り姫自体も輝き始め、姫は光に包まれた。

『その命に息吹を。止まり続ける時間よ動き出せ。汝の輝きに祝福をもたらさん』

 そう唱えたヴェルデが瞳を開いたその時。姫を包んでいた光が一瞬強さを増し、次第に光は弱まっていった。

 静かに眠り姫を見つめるメイナードとヴェルデ。何も変化が起こらないように思えたが、眠り姫のまぶたがぴくり、と動いた。