メイナードが嫌なわけではない。ただ、この国にいることは正直言って耐えがたい。ここにいるだけで昔を思い出し、もう二度と会えない大切な人たちのことを思って胸が苦しくなるだろう。
 それに、正妃になるご令嬢のことを考えると、突然目を覚ました女が側妃になるなど意味が分からないだろう。もし正妃となるご令嬢がメイナードのことを本気で好いているのであれば、その人に嫌な気持ちをさせてしまうかもしれない。

 ローラはヴェルデの顔をジッと見つめる。ヴェルデはアクアマリンのような美しい瞳をローラに向けて優しく微笑んでいる。吸い込まれそうなその美しい瞳に、ローラはなぜか胸が高鳴った。

(な、なぜ胸が高鳴るのかしら、胸を高鳴らせている場合ではないのに)

 高鳴る胸を打ち消すかのように、ローラはコホン、と一つ咳をしてヴェルデに尋ねる。

「……あなたはそれで本当にいいのですか?時間が経ってから後悔してもどうしようもないのですよ」
「ええ、もちろんです。それに後悔などしません。これはあなたを目覚めさせた私のすべきことだと思っています。もちろん、義務感で言っているのではありませんよ、私は自分の意志で言っているのです」

 ヴェルデの芯のこもった言葉と表情に、嘘は見当たらない。ヴェルデの言葉に、ローラはついに意を決した。

「……わかりました。あなたの申し出をお受けします。こんな身ですが、あなたのお役に立てるように頑張りますので、よろしくお願いいたします」

 そう言って静かにお辞儀をするローラを見て、ヴェルデは両目を見開いてから心底嬉しそうに微笑んだ。その微笑みを見た瞬間、ローラの高鳴っていた心臓がさらに激しさを増す。

(この方の微笑みはとんでもない破壊力ね……!多くの女性が放っておかないのもうなずけるわ)

 ローラがヴェルデに思わず見惚れていると、ヴェルデが嬉しそうにローラの片手を取る。

「ありがとうございます。あなたのことはこれから私がどんなことがあっても守り抜きます。そして、幸せにしてみせますよ」

 そう言って、ローラの手の甲に優しくキスをする。

(な、な、な!?)

 突然のことにローラの顔が一気に赤くなる。そしてヴェルデはそんなローラの顔を見てまた嬉しそうに微笑んだ。