「そうですね、メリットが無いとお思いになるかもしれませんが、全く無いわけではありません。あなたは百年も眠り続けていたが全く老化していません。それに、私はあなたを目覚めさせることはできましたが、あなたにかかった魔法がどのような魔法で、なぜあなたが眠り続けることになったのか、完全に解明できたわけではないのです。ですが、魔術師としてどうしてもその原理が知りたい。あなた自身を使ってそれを解明したいのです。そのために、一緒に来て解明の手伝いをしていただきたい」

 ヴェルデは優しく微笑みながらさくさくと言葉を並べていく。

「それから、ローラ様には私の婚約者になっていただきたいのです」
「は、ええ?」

 婚約者、という言葉を聞いた瞬間、ローラは素っ頓狂な声を上げた。自分でもそんな声が出るとは思わなかったのだろう、驚き顔を赤らめて口を両手で塞ぐ。そんなローラを見て、ヴェルデは楽しそうにクスクスと笑った。

「ははは、驚くのも無理はありません。婚約者、といっても婚約者のふりをしていただくだけです。自分で言うのもなんですが、私は見ての通り器量よしです。しかも我が国では群を抜いて秀でている魔術師なので、言い寄って来るご令嬢が後を絶えません。ですが、私は国のために魔法の研究に没頭したいので、女性に興味がありません。ですので、女性避けのために婚約者のふりをしていただきたいのです」

 確かに、ヴェルデはとても美しく妖艶な見た目をしている。メイナードもかなりの器量よしだが、それに負けず劣らずの見た目。しかも百年も眠っていた人間を起こすことのできる魔術師なのだ。実力も相当なものなのだろう。人気があるのはうなずける。


「メイナード殿下については……そうですね、あなたを目覚めさせた褒美としてあなたをいただく、と提案すれば文句は言われないと思います」

 なんとも頭のきれる人だ。いつから考えていたのかわからないが、ここまで筋の通った話をされると反論の余地がない。ローラが唖然としてヴェルデを見つめていると、ヴェルデは畳みかけるように言葉を発する。


「メイナード殿下はあなたを側妃に、とおっしゃっていました。あなたが側妃になれば、残りの人生をこの国に縛り付けられることになるでしょう。好きでもない男の側妃となり、生きる意味のないこの国に一生縛り付けられるか、私と一緒に別な国に行き新しい人生を歩むか。どちらがよろしいですか?」

 ヴェルデは有無を言わさない笑顔でローラに告げる。それを聞いたローラは、少し考え込んで静かにため息をついた。この魔術師の言うことは自分にとってかなり魅力的な話だ。この話を蹴ってしまえば確実にメイナードの側妃となり、この国で一生を終わらせることになるだろう。