「……最初は、信じられなかったのです。目覚めてすぐの時はただエルヴィン様のことが心配で、無事だと知って本当に嬉しかった。でも……」

 静かに、思い出すように話すローラを、ヴェルデは優しく見つめ耳を傾ける。

「百年も眠り続けていただなんて、信じられなかった。ついさっき、エルヴィン様を庇って魔法を受けたと思っていたのに、目覚めたら百年もたっていただなんて、ありえない。でも、目の前にいたあなたたちのことは見たこともなかったし、部屋だって全く知らない場所だった。サイレーン国とティアール国が同盟していることも信じられないし、とにかく、何もかもがわからなかったのです」

 話が進むごとに、どんどんローラの声が震えていく。そんなローラの手を、ヴェルデは優しく包み込み、ローラを見つめていた。

「メイナード殿下がくださった歴史書を読むうちに、私は本当に百年も眠っていたんだと思い知らされました。何度確かめても、エルヴィン様は他の方と結婚して、この国はその後も繁栄していった、歴史書にそう書かれているのです。もう、私のいた現実は過去のものになっている。エルヴィン様も、家族も、友人も、出会った人たち全てが、見てきた景色全てが、もう、はるか……遠い、昔に、無くなって……私だけが、ここに……」

 ローラはポロポロと涙をこぼし、嗚咽をもらす。そんなローラを、ヴェルデは静かに抱きしめた。

「わ、私だけが、こうして、こ、こに、いて、でも、ここに、私を、あのころの、私を、知っている人は、誰も、いない……エルヴィン様も、もう、いない、の……生きていても、私は、これから、ずっと、ひとりぼっちで……」

 泣きながら、苦しそうに言葉を紡ぎだす。そうして、ローラは今度こそ本当に泣き出した。ヴェルデの腕の中で、震えながら呼吸を乱し、苦しそうに泣いている。そんなローラを、ヴェルデは強く抱きしめることしかできなかった。