(……ここは……?)

 瞼をあけると、そこには天井が見える。確か自分は屋敷から抜け出そうとしていたはずではなかったか。そう思いながらローラは視線を横に向けると、そこには悲しそうな顔でローラを見つめるヴェルデの姿があった。

「あなたは……」
「気を失われてしまったので、失礼とは思いましたが私の部屋までお連れしました」

 ローラがゆっくり起き上がると、目の前には見慣れない部屋が広がっていた。どうやらヴェルデがこの国にいる間滞在している部屋らしい。気絶した後、運ばれてふかふかのベッドに寝かされていたようだ。

「……申し訳ありません。あなたに迷惑をかけてしまいました」
「いえ、ローラ様が謝る必要はありません。当然のことをしたまでですから」

 ヴェルデは優しく微笑むが、その微笑には少し悲しさと苦しさが入り混じっているように思える。

(私は、この人にとても酷いことを言ってしまったわ)

 錯乱していたとはいえ、自分を目覚めさせてくれた相手に対し、なぜ起こしたのだ、死なせてくれと言ったのだ。こんなにも失礼で酷いことがあるだろうか。ローラは自分のしでかしたことの重大さを今になって思い知り、恐ろしくなった。

 そっとヴェルデを見ると、ヴェルデはその視線に気づいてまた優しく微笑む。銀色の髪をふわりとなびかせ、アクアマリン色の澄んだ瞳を持つ優しそうな、若く美しい青年。白い花の刺繍がほどこされた紺色のローブが、彼の美しさを一層引き立たせているように思える。

 隣国の魔術師と言っていたが、こんなに若い魔術師が百年も眠っていた自分を目覚めさせたことに驚く。そして、そんな若い青年にあんな酷いことを言ってしまったのだと、ローラはまた自責の念にかられていた。