「どちらへ行かれるのですか?」

 そう聞かれて、ローラは目を泳がせ口を開くがすぐに閉ざす。まさか、誰かに見つかるなどとは思いもせず、うまい言い訳が思いつかない。そもそも、人の気配など全く感じなかった。どうして見つかってしまったのだろうか。

「あ、あの、月があまりにも綺麗だったので、散歩をしようかと……」
「そんな恰好で散歩は危なすぎます。それに裸足ではないですか。散歩をするのであれば上に羽織るものと靴を用意しましょう。私なら魔法でお出しできます」

 ヴェルデがそう言って優しく微笑むと、ローラはヴェルデを見てからゴクリ、と喉を鳴らし、後ずさりをする。そしてそのまま一目散に走り出した。

「!!!」

 ヴェルデが追いかけすぐにローラの腕を掴むと、ローラは腕を引っ張ってほどこうとする。

「離して!」
「駄目です、あなたをそのまま行かすわけにはいきません!」

 暴れようとするローラを、ヴェルデは必死に取り押さえ、抱きしめた。ヴェルデの腕の中でローラは暴れていたが、次第に静かになった。そしてヴェルデの腕の中で、すすり泣く声がする。

「……して、どうして、私のことを起こしたの?どうして?私はどうして起きてしまったの?」

 顔を上げ、両目から涙をポロポロとこぼしながらヴェルデを見て訴えるローラ。その姿にヴェルデは絶句した。メイナードの頼みだったとはいえ、ローラを目覚めさせたのはヴェルデだ。その本人に、ローラはなぜ目覚めさせたのかと涙ながらに訴えたのだ。

「お願い、死なせて。私は生きてる価値なんてないの。この時代に生きる意味なんてないの。お願い、お願いだから……」

 そう言って、ローラはヴェルデの腕の中でフッと気絶する。恐らくはずっと眠れていなかったのだろう。緊張の糸が切れて意識を無くしてしまったようだ。

「ローラ様……」

 ローラを抱き止め、ヴェルデは苦しそうにつぶやいた。