「エルヴィン様!危ないっ!」

 王子にドンッと体当たりをした姫に、魔法が直撃する。この先、百年眠り続けることになるその姫は、そのままその場に崩れ落ちた。




「眠り続ける姫、ですか?」

 サイレーン国の筆頭魔術師、ヴェルデは首をかしげながら隣国の第一王子、メイナードにそう尋ねた。

「あぁ、我が国には眠り姫と呼ばれる姫がいてね。隣国の筆頭魔術師である君ならもしかしたら起こす方法を知っているんじゃないかと思って」

 サイレーン国と隣国であるティアール国は同盟国であり、この日はサイレーン国の筆頭魔術師であるヴェルデがティアール国へメイナードの命で訪れていた。

「眠り姫は百年前、当時の第一王子の婚約者だったご令嬢だ。結婚式当日、王子へ向けられた魔法から王子をかばったんだ。運良く一命は取りとめたが、それ以来ずっと眠り続けている。当時は王子を救った功績を讃えられ、眠り続けたまま聖女として祀り上げられたようだ。その後、起きる気配は無く、その命を終わらせてあげようと試みた時代もあったようだが、眠り姫はどうやっても殺せなかったらしい」

 刃を向けても魔法で攻撃しても、姫には傷ひとつつかない。そのため、百年経った今でもずっと眠り続けているのだ。

「老化などはしていないのでしょうか?」
「全くしていない。若々しいまま、今でも眠り続けているよ」

 そう言って、メイナードは一つの部屋の前で足を止める。

「ここが眠り姫の部屋だ。どうする?入ってみるかい?」

 そう聞かれたヴェルデは少し悩んだ。眠り続けているとはいえ、隣国の、ましてや過去の王子の婚約者。すなわちこの国の妃殿下になるはずたった人でもある。自分が立ち入っていい場所ではないのではないかと思った。