ある浜辺の町です。
そこにはうらしま太郎という18歳の心の優しい男がいました。
うらしま太郎は小学生の頃から野球が好きでリトルリーグで野球をしていました。
うらしま太郎はピッチャーでした。
そして中学も野球部で活躍し高校はA高校というあまり強豪校ではない地元の高校に入りました。
そして一年生からエースとして活躍しました。
浦島は一年の時からプロ野球のスカウトに目をつけられていていました。
浦島は1年生2年生3年生とA高校のエースとして活躍しA高校は3年連続で夏の甲子園大会で優勝しました。
もちろんセ・パ・両リーグ12球団の全てのチームが彼に目をつけていました。
そして浦島はドラフト会議で横浜DeNAベイスターズに1位に指名されて横浜DeNAベイスターズに入団することが決まりました。
浦島太郎は来シーズンからのプロでの活躍のため毎朝浜辺を10kmランニングしていました。

ある日うらしま太郎が浜辺をランニングしていた時です。
浜辺で子供たちが大きな亀をいじめていました。
「やーい。やーい。ドン亀」
と子供たちは囃し立て棒で巨大な亀を叩いていました。
「こらこら。君たち。そんな可哀想なことをするものじゃないよ」
と、うらしま太郎は子供たちを諌めました。
「うわー。逃げろー」
子供たちはうらしま太郎に叱られて蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。
あとには亀が残されました。
「ああ。ありがとうございました」
亀は助けてもらったお礼を言いました。
「あ、あの。お名前は?」
亀が聞きました。
「私はうらしま太郎と言います」
うらしま太郎は答えました。
「あ、あの。助けてもらったお礼をしたいのですが・・・」
亀が言いました。
「いいよ。別に。そんなお礼なんて。ただ子供たちに注意しただけだから」
とうらしま太郎は言いました。
「いいえ。それでは私の気がすみません。どうかぜひ私の背中に乗って下さい。竜宮島にご案内いたします。とてもいい所ですよ」
亀は言いました。
「そうかい。わかった。それじゃあちょっとその竜宮島という所に行ってみるとするか」
「ありがとうございます」
そう言うと亀はノロノロと海の方へ歩んで行きました。
「さあ。うらしま太郎さん。私の背中に乗って下さい」
亀はそううらしま太郎に促しました。
浦島太郎は大きな亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は海の中に入るとスーイスーイと泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って海上を走るのはなかなか快適でした。
水上バイクに乗っているような気分です。
やがて島が見えてきました。
「さあ。着きました。あれが竜宮島です」
亀が言いました。
浦島太郎は亀の背中を降りました。
亀は陸に上がるとまたノロノロと歩き出しました。
そしてある家の前で止まりました。
チャイムとドアホーンは家の下の方に設置されていました。
亀はチャイムを鼻の先で押しました。
そして。
「乙姫さまー。ただいま帰りました」
と亀は大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という声がして家の中でパタパタと足音が聞こえました。
そして家の戸が開きました。
自分と同い年くらいの可愛い少女が出てきました。
「お帰り。亀蔵」
と少女は言いました。
「乙姫さま。ただいま帰りました」
亀が言いました。
乙姫は亀の横に立っている男にすぐに視線を向けました。
「あら。この方は誰?」
少女は亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は浦島太郎さまといいます。この方は私が浜辺で子供たちにいじめられている所を救ってくださったんです」
亀は乙姫にそう説明しました。
「そうだったのですか。浦島さま。それは。それは。どうもありがとうございました。この亀は亀蔵と言って私の大切なペットです。ぜひともお礼をしたいのでどうぞお上がり下さい」
そう言って乙姫は浦島太郎に恭しく頭を下げました。
「いいえ。私はただこの亀が子供たちにいじめられているのを注意しただけです」
浦島は恩着せがましいのが大嫌いな性格だったので照れくさくなって慎ましく言いました。
しかし乙姫の家に上がるのを断る理由もないので浦島は乙姫の家に入りました。
「浦島さま。亀蔵を助けて下さってありがとうございます」
「いいえ。別に子供たちに注意しただけです」
「お礼に手によりをかけて食事を作りますのでどうか食べていって下さい」
「はい。わかりました」
そう言って乙姫はキッチンに行きました。
しばし食卓で待っていると乙姫が料理を持ってやって来ました。
乙姫はセクシーなビキニに着替えていました。
浦島は思わずうっと興奮しました。
乙姫があまりにセクシーだったからです。
乙姫は料理を出しました。
それは海の幸山の幸が豊富なとても美味しい料理でした。
食事が済むと乙姫は
「では。この町を案内いたしますわ」
と言ってワンボックスワゴンに浦島を乗せて島を一周しました。
島は周囲1kmで西にはきれいな絶景がありますのでどうかご覧になっていって下さいと言って乙姫は浦島を西ガ浜に連れて行きました。
そこはとても美しい風光明媚な眺めでした。
浦島は離れ小島に小旅行に来たような感覚になりました。
「ちょっと待ってて下さい」
そう言って乙姫はブラウスとスカートを脱いでビキニ姿になるとドボンと海の中に入りました。
「私、素潜りが出来るんです」
そう乙姫はニコッと笑って言いました。
そして海中に潜って行きました。
しばしして乙姫はアワビとサザエを持って浮かんできました。
そして島を一周すると乙姫は家にもどってきました。
「浦島さん。どうぞ。お風呂にお入り下さい」
乙姫に促されて浦島は風呂に入りました。
(あー。いい湯だ)
浦島はしばしいい気分で湯に浸かっていました。
しばしして浦島は体を洗おうと浴槽から出ました。
するとその時です。
ガラリと戸が開いて乙姫が浴室に入ってきました。
ビキニ姿です。
浦島はびっくりすると同時にドキンとしました。
「浦島さま。お背中をお流し致します」
そう言って乙姫は体を洗おうと湯船から上がった浦島の背中をスポンジに泡をつけてキュッキュッと洗ってお湯で流しました。
「どどうも有難うございます」
そう言って浦島はまた湯船に入りました。
「あ、あの。浦島さま」
「はい。何でしょうか?」
「あつかましいお願いですが。私も一緒にお風呂に入ってもよろしいでしょうか?」
「えええ」
浦島は気が小さいので乙姫の申し出を断ることが出来ませんでした。
乙姫はビキニを脱いで裸になり浦島と一緒に浴槽に入りました。
「湯加減はいかがですか?」
乙姫が聞きました。
「え、ええ。いいです」
浦島は顔を真っ赤にして答えました。
そうしてしばし乙姫と湯に浸かった後風呂から上がりました。
浦島は何だか自分が本当に伽話の「浦島太郎」の話の主人公になっているような気がしてきまた。
しかしいつまでも島に居るわけにはいきません。
「乙姫さま。今日はどうも有難うございました。そろそろ帰ろうと思います」
浦島が言いました。
「浦島さま」
「はい。何でしょうか?」
「あの。ここは週に一回しか本土と往復する定期船が出ていません。今日がその日で浦島さまがこの島に来られる1時間前に来て物資を届けて本土にもどってしまいました。なので7日待って頂けないでしょうか?」
乙姫が言いました。
「そうですか。それでは仕方がありませんね。では7日ここに泊めさせて頂けないでしょうか?」
浦島太郎が言いました。
「ええ。ごゆっくりおくつろぎ下さい」
乙姫はニッコリ笑って言いました。
「乙姫さま。ところで乙姫さまのお父さんやお母さんはどうしているのですか?」
浦島が聞きました。
「母は私が幼い頃膵臓ガンで死んでしまいました。父は漁師でこの村の村長です。しかし最近体の具合が悪いので本土の病院に精密検査してもらうため今日の定期船で本土に行きました」
乙姫が言いました。
「そうなんですか。大変なんですね」
浦島は乙姫を可哀想に思いました。
その夜浦島は乙姫の家に泊まりました。
翌日。
乙姫はカレイの煮つけとみそ汁とご飯の朝食を浦島に出しました。
浦島が乙姫と朝食をしている時です。
「乙姫さま。おはようございます。これから漁に出ますがお父さんが来ていませんがどうしたのでしょうか?」
一人の太った漁師がやって来て乙姫に聞きました。
「父は本土の病院で精密検査を受けるため昨日の定期船で本土に行きました」
乙姫が言いました。
「そうですか。それは困ったな」
太った漁師は眉間に皺を寄せて独り言を呟くように言いました。
「ああ。そうだったわ。困ったわ。父がいないと漁が出来ないわ・・・」
乙姫も独り言を呟くように言いました。
浦島は一宿一飯の恩義を返す情を持っていたので乙姫に親切にもてなしてもらったお礼も兼ねて昨日から乙姫に何かお礼をしなければ・・・と思っていました。
「あ、あの。私でよければ何か役に立てれることがあれば手伝いますが・・・」
心の優しい浦島はそう申し出ました。
「本当ですか。それは助かります」
そう言って浦島は太った漁師と一緒に漁港へ行きました。
漁港は別の一人の痩せた漁師がいました。
「おーい。村長は昨日本土の病院で精密検査を受けるため定期船で本土に行ってしまったそうだ。その代わりこの方が仕事を手伝って下さるそうだ。うらしま太郎さんだ」
そう太った漁師が言いました。
「いやー。それは助かります。何分人手がないもので」
痩せた漁師は言いました。
「いえ。私は構いません。しかし私でも出来ますか?」
うらしま太郎は聞きました。
「ええ。カツオの一本釣りです。簡単ですよ」
と漁港にいた痩せた漁師が言いました。
こうして浦島は漁師の手伝いをすることになりました。
こうして漁師二人とうらしま太郎を乗せた漁船は海に出ました。
カツオの一本釣りは簡単でした。
面白いようにカツオがとれました。
(こういう農林水産業こそ日本の国力なのだな)
とうらしま太郎は実感しました。
夕方、大漁で船は島に戻ってきました。
「いやー。浦島さん。有難う。人手が足りなくて。どうしようかと思っていたんです。今が漁の最盛期ですからね」
と漁師はうらしま太郎に礼を言いました。
「浦島さん。どうも有難うございました」
家に帰ると乙姫も深々と頭を下げて感謝の意を表しました。
その日も浦島は乙姫のもてなしで豪勢な夕ご飯を食べました。

その夜。
浦島が寝ているとそーと寝室の戸が開きました。
浦島はびっくりしました。
乙姫でした。
「あっ。乙姫さま。何の用ですか?」
浦島は聞きました。
「あ、あの。浦島さん。今日は漁を手伝って下さって有難うございました。あ、あの。お礼として。私でよければ好きなようになさって下さい」
そう言って乙姫は寝間着を脱いで裸になって浦島の蒲団の中に入ってきました。
浦島は心が優しいので女に恥をかかすことが出来ないので乙姫をそっと抱きました。
抱いているうちにだんだん浦島は興奮してきました。

翌日も浦島は漁を手伝いました。
浦島の心境が変わり始めていました。
(プロ野球選手なんて何も生産していない。自分のやりたいことをやって世間の喝采を受け莫大な年俸をもらっている。あんなのが本当に仕事といえるのだろうか。それよりもこうやって汗水たらして働くことこそ本当の労働と言えるのではないだろうか?プロ野球選手なんて世の中にいなくても国民は生きていける。しかしこういう第一次産業で食料を生産したり捕獲したりする人がいなければ国民は生きていけないのだ)
浦島は誠実な性格でしたのでそんなことを考えていました。

こうしてようやく定期船が来る日が来ました。
「乙姫さま。一週間色々と有難うございました」
浦島は深々と頭を下げて乙姫に別れの挨拶をしました。
乙姫は暗い顔をしています。
「あ、あの。浦島さん。大変残念ですが台風が近づいていて時化になりそうなので定期船は危ないので来ないそうです」
そう乙姫が言いました。
浦島はショックを受けました。
しかし時化では仕方ありません。
「そうですか。それじゃあ仕方ありませんね」
浦島が言いました。
「それと本土の病院からの連絡でわかったことなのですが父は脳梗塞があって本土の病院で当分リハビリをしなければならないそうです」
乙姫が言いました。
「そうですか」
浦島は仕方なく次回の定期船が来るのを待つことにしました。
というより本土に帰るにはそれしか方法がありません。
浦島は漁の無い日は他の漁師と一緒に網の修理や船の清掃などの仕事をして過ごしました。
その後も定期船が来る日はなぜだか海が時化て定期船は来ませんでした。
浦島は島の漁の人手不足が可哀想で毎日漁を手伝いました。
そうして3週間が経ちました。
今日は定期船が来る日です。
「乙姫さま。色々と有難うございました。とても楽しい日々でした」
浦島は深々と頭を下げて乙姫に別れの挨拶をしました。
すると乙姫は暗い顔をして重たげな口を開きました。
「あ、あの。浦島さま」
「はい。何でしょうか?」
「あ、あの。浦島さん。とても言いにくいことなんですけれど。昨日妊娠検査薬で検査した所お腹に私と浦島さんの赤ちゃんが出来ました。浦島さんにはご迷惑をおかけしたくないので中絶しようと思います」
乙姫が言いました。
浦島はショックを受けました。
「乙姫さん。あなたは産みたいのですかそれとも中絶したいのですか?」
浦島が乙姫の意見を聞きました。
「私は産みたいです。だって浦島さんは優しいし私は浦島さんを愛していますもの」
乙姫が言いました。
「わかりました。それなら産んで下さい。私が働いて養育費は支払います」
浦島は心が優しいので自分の事より乙姫の希望を優先させました。
こうして浦島は漁を手伝いながら竜宮島で過ごしました。
10カ月して乙姫は女の赤ちゃんを産みました。
浦島は責任感が強いので生まれてきた子供の父親となりそして乙姫と結婚しました。
浦島は女を妊娠させておいてスタコラさっさと逃げ出す今時の若者とは違って人間としての責任感が強かったのです。

それから二カ月が経ちました。
浦島は乙姫の夫となりそして乙姫の子の父親となりそして一人前の漁師になっていました。
うらしま太郎は予定していた横浜DeNAベイスターズに入団してプロ野球選手になることはあきらめました。
ある時漁から帰ってきた浦島に赤ちゃんを抱いて乳をやっている乙姫が語り始めました。
「あ、あの。あなた。話したいことがあるの」
「何だい?」
「実はね。一年前にあなたがここへ来たでしょ。亀に乗って」
「ああ」
「あれはね。実は。私が仕組んだことなのです」
「どういうことなの?」
「あなたがいつも浜辺を朝ランしているのを私は知っていました。それであなたが朝ランする時間に亀にその通り道にいるよう命じたのです。それで村の子供たちに亀をいじめるよう私が頼んだのです。あなたは心が優しいからきっと亀を助けてくれると思っていました。案の定あなたは亀を助けてくれました」
浦島は目を白黒させて乙姫を見ました。
「でもどうして亀は人語を話せたんだ?あの時は疑問に思わなかったが今考えてみると不思議だな」
浦島は聞き返しました。
「それはね。亀の甲羅の中に小型のスマートフォンを取り付けておいたの。それで亀をいじめた子供たちがスマートフォンで物陰からあなたを見ていて子供たちに喋らせたのです」
乙姫は言いました。
「なるほど。そうだったのか。でもどうして君は僕をこの竜宮島へ来させたんだ?」
浦島が聞きました。
「あなたが好きだったから」
乙姫は顔を赤くして言いました。
「どうして僕のことを知っているの?」
浦島が聞きました。
「あなたはA高校のピッチャーだったでしょ。夏の甲子園大会の地区予選ではあなたが投げるのを私は何度も応援しに行きました。あなたはすごく素敵だったわ。あなたを一目見た時から私はあなたに恋してしまったのです。でも私の父はこの島を愛していて私もこの島が好きなのです。なので。あなたにこの島へ来て私と結婚してこの島に住んで欲しかったのです。でもそんなことをあなたに言ってもあなたは絶対そんなことしてくれないでしょ。だってあなたは学校中いや日本中の女子学生みんなにモテモテだしプロ野球選手になったらあなたはきっと奇麗な女子アナウンサーと結婚してしまうでしょ。私ではきれいな女子アナにはとてもかなわないもの。でも私はあなたとどうしても結婚したかったのです。そして私とここで一緒に住んで欲しかったのです。それで私はあなたのやさしさ誠実さにつけこんでそういう計画を立ててしまったのです。そしてあなたは私の計画通りに行動したわ。私はあなたの誠実さにつけこんでしまったのです。父親の脳梗塞は本当はウソです。父は本土で漁師として元気に働いています。それと定期船がなかなか来なかったのはこの島は限界集落で島の存続が危ないので村長である父が若者の人手を集めるため亀を使って島に若者を呼んできては定期船が時化で来れないと報告させて定期船が来ないようにしていたのです。ごめんなさい」
そう言って乙姫は床に頭をこすりつけて謝りました。
「なるほど。青田刈りだったんだね。そんなこととは知らなかったな。まんまと君の計画にはまってしまったな。でもいいよ。僕は君が好きだから」
浦島が言いました。
「ありがとう。あなた」
乙姫は涙を流して夫に抱きつきました。
「でお父さんはまだ漁師が出来るんだね?」
「ええ。父は元気です。父は私があなたの子供を出産するまで本土で漁師をすると提案しました。そして今本土で漁師をしています」
「そうかい。ところでお父さんはこの島にもどりたがっているのかね?」
「ええ。父は本当はこの島で漁師をしたいと思っています」
浦島は腕組みをして考えました。
そしてこんな提案をしました。
「じゃあお父さんにはここにもどってきてもらおう。君は僕と一緒に本土で親子三人で暮らさないかい?横浜DeNAベイスターズは僕をスカウトしてくれたから。僕はまた野球を始めるよ」
「ええ。いいわ」
乙姫は嬉しそうな顔で快諾しました。
こうしてうらしま太郎と妻の乙姫と幼い娘は島を出て横浜のマンションに移り住みました。
一年間行方不明だったうらしま太郎が横浜DeNAベイスターズにひょっこりもどってきたので監督をはじめみなが驚きました。
「一年間一体どこへ行っていたんだね?」
との問いには浦島は
「それはちょっと秘密です」
と笑って答えました。
浦島は横浜DeNAベイスターズに入団し一年目から一軍のレギュラーになり防御率0.00の最優秀投手になりました。
浦島は3億円の契約金をすべて竜宮島のインフラ整備のために寄付しました。
そしてその年横浜DeNAベイスターズはリーグ優勝し日本シリーズでも優勝しました。




平成30年10月16日(火)擱筆