その人は私にタオルを何枚か渡しながら優しく尋ねてきた。




「お名前、聞いてもいいですか」




 聞きたいことは色々とあるだろうに、その人が私に聞いてきたのは名前だけ。

 答えると、すぐにカウンターの奥へと消えていく。やがて、クリーム色の液体が入った太めの低いグラスを持って戻ってきた。




「安直だけど、志緒(しお)さんってお名前だということでソルティードッグにしてみました。苦手じゃなければいいけど」


「ソルティー……?」


「ソルティードッグ。グレープフルーツジュースとウォッカ、それから塩を使ったカクテルのことです。ちなみに塩は混ぜてあるんじゃなくてグラスの淵に付いている結晶がそう」


「カクテルってことは……お酒ですか?」


「ああ、これはもちろんノンアルコールだから安心して。いわゆるモクテルってやつですよ」