「大丈夫? びしょ濡れですけど」




 その人と出会ったのは、とにかく最悪なことが重なった6月の金曜日のことだった。


 白いシャツに黒いサロンエプロンを着たその人のちょっと驚いたような声は、割と好きな声だな……なんてぼんやりと思う。

 この日あった最悪なこと一つ目、午後からバケツをひっくり返したような土砂降りだった。二つ目、朝は晴れていたから傘を持ってこなかった。三つ目、両親が外出中で家の鍵が開けられなかった。


 四つ目、彼氏に振られた。


 付き合って三か月、同じクラスの男子。ノリで付き合った部分はあった。交際経験ぐらいないと舐められるだろうからこれを機に経験しておこうという打算もあった。それでも……ちゃんと好きだった。相思相愛のつもりだった。



 だけど彼は言った。他に好きな人ができたから別れてほしいと。


 それから、私といる時間はひどく息苦しいのだとも。