その日の放課後、葵が右隣を向くと言った。
 「小野田君、部活行こう」
 「う……ん、今日はその休もうかな? 部活」
  と小声で小野田が言った。

 「どうしてだ? 小野田君」
 後ろからイカツイ声が聞こえて来た。
 「えっ? この声」
 聞き覚えがある声に小野田が恐る恐る
後ろを向いた。

 「やあ! 小野田君、遅いから迎えにきたよ
 料理研究会部長、望月が立っていた。
 「え~! 俺、行きたくないよ~」
 と言うと小野田が全速力で教室を出て行った。
 「小野田君、待ってよ~僕を置いて
行かないで~」
 望月が小野田を追いかける。

 それを見ていた葵が言った。
 「小野田君、どうして逃げるのかな?」
 「多分照れてるんじゃないかな」柴田が言った。
 「そうなんだ。小野田君、照れてるのか……って誰に?」
  葵が柴田に聞いた。

 「う~ん、望月さんに?」と柴田が言った。
 「え~うそ……小野田君、そうだったのか」
  少し驚いた顔を見せた葵。

 「でも、そうなると柴田君大変だね
 と葵が呟いた。
 「なんで? 俺が大変なの?」と柴田が聞いた。

 「だって、柴田君、望月先輩のことが
好きなんでしょ?」
 「え? なんで? そうなるのかな……?」
  驚いた柴田が聞いた。

 「え~、だってさ、体験入部の時柴田君、
望月先輩にもろに『壁ドン!』してたでしょ。
 あんなに人がいる前で堂々と……それに」
 「それに?」
 葵の言葉を聞いて動揺した柴田が葵に聞いた。
 「それに、壁ドンして先輩の耳元で
囁いてたでしょ?
 二人のあんな姿見たら私、キュンって
しちゃった。
 でも、親友の小野田君も望月先輩のこと……
となると、あ~いけない三角関係? やばいよ~」
 と少し興奮した口調で葵が言った。

 彼女の言葉を聞いた柴田は全力で否定した。
 「浜辺さん、ち、違うんだ。誤解だよ」
 「大丈夫だよ。気づいてるの私ぐらいだから。
  柴田君、頑張ってね」
  葵は両手で拳を握ると二回程上下に動かすと、
 ニコリと笑い教室を出て行った。
 「ちょっと待って! 浜辺さん」
 教室内に響き渡る柴田の声。
 「ふはは」と前の席の井上が笑う。
 「ぷぷぷ」と後ろの席の青木が噴き出す。

 「何だよ、おまえら笑うなよ」と少しキレ気味の柴田。
 「天罰だよ」と柴田の後ろから声がした。
 柴田が振り向くと、そこには望月を巻いて
息を切らしながら教室に戻って来た右隣の小野田が立っていた。
 「小野田、お前」と柴田が言った。
 小野田はニヤリと笑うと、
 「俺をハメた罰だ~」と言って
柴田に飛びかかった。
 「おい、おい、おい」と笑って止めに入る青木。
 「柴田が望月さんを好き? なんという誤解」
 と腹を抱えて笑い転げる井上。
 小野田に飛びつかれながら柴田は、
この誤解をどうすれば解けるのだろうか?
 と考えるのであった。
 シルバーフレーム クールで知的でドSの柴田。
 予期せぬ事態に追い込まれた彼、
この緊急事態……どう乗り切るのか……。