「料理研究会? 何だそれ」
  可愛い顔をした井上が言った。
 「まぁ、簡単に言えば様々な料理を
作って食べて批評する的な感じかな……
あっ! でも、調理工程はちゃんと基礎からやるから」
 イカツイ顔の大男が言った。
 「あんた、誰?」と少しイラつきモードの青木が言った。
 「はっ?」と大男の顔つきが変わる。

 強面 ワイルド系青木 VS イカツイ顔の大男、 
一触即発の雰囲気だ……。 

 それを見て驚いた葵は二人の間に入り込むと
言った。
 「青木君、この人料理研究会の部長、望月真也さん」
 葵は青木に紹介した。
 「部長? このイカツイ男が?」青木が呟く。
 「君こそ、強面の細長メガネ君じゃないか」望月が言った。
 「この野郎……」と思った青木であったが、
葵の手前ここはグッとこらえて偽りの笑顔を見せた。
 「浜辺、何で俺をこの料理研究会に
誘ったんだ?」
 青木が葵に尋ねた。
 「う~ん。それはね、青木君の切れ長の目が、
板前さんのイメージそのもので……
白い板前さんが着る白衣が超似合うだろうなと思って。
 それに、青木君ワイルド系だから白衣から見える
胸元がセクシーだろうな……って。
 だだ、それだけの理由です」と徐々に小声に
なる葵。

 「えっ? それだけの理由で俺を誘ったの?
 ここに」
 「うん、だめだったかな?」
 うるうるした目で青木を見上げる葵。

 う~ん、可愛すぎる……
と青木の心が大きく揺れる
が……しかし、彼の揺れる心がピタリと止まった。

 それは、頭に三角巾、エプロン姿の複数の
メガネ男子たち。

 俺もこの中でこいつ等と一緒に三角巾をつけて、
エプロンをして浜辺と一緒に笑って料理を
作るのか?
 と青木は頭の中で想像する。

 いいや……だめだ……と現実を見る青木。
 「せっかく、四人も見学に来たのだから
各班に分かれて見て行ったらどう?」
 少し語尾が上がる望月。

 「班に分かれる?」と柴田が望月に聞いた。

 「そう、家庭科室で四つのグループに分かれて
各班の研究する料理を作るの。
 日本料理、イタリア料理、スウィーツ、
そしてフルコース料理、僕の見立てというか
第一印象で班を分けるから……
四人とも黒板の前に来てくれないかな」
 と言うと望月は黒板に文字を書いた。

 日本料理、青木君。
 イタリア料理、小野田君。
 スウィーツ、井上君。
 フルコース、柴田君。

 「なんで? この振り分けに?」
 柴田が望月に聞いた。

 「まあ、僕の第一印象かな。青木君は浜辺さんの
推薦もあり文句なしの日本料理、スマートな印象で
爽やかさ。
 イタリア料理に小野田君、
そして可愛い系の君、食べちゃいたいくらいの
井上君は甘い甘いスウィーツ、
最後は君、何でもそつなくこなすパーフェクト
人間の柴田君はフルコースが最適だ」
 と自信満々に話す望月。

 すると、葵が家庭科室全体に聞こえるくらいの声で言った。
 「みなさ~ん、黒板を注目してください。
 今日、体験入部の四人の方々です。
 左から井上君、小野田君、青木君、柴田君です。
 宜しくお願いします」
 と言うと今まで各班で作業をしていた、
部員が一斉に彼らの方を見た。
 「うわ~、男子ばっか……女子少な!」小野田がぼやく。
 「わ~ん、沢山のメガネ男子がこっち見てる……怖い」井上が呟く。
 「三角巾とエプロン姿のメガネ野郎」と小野田が言う。
 「どうする柴田」と青木が柴田に聞いた。
 「決まってる」と柴田が一言。
 「ああ、よろしく頼む」と青木が言った。

 柴田は黒板の前にいる望月に向かって、
いきなり『バン!』と掌を黒板に叩きつけた。
 そう……『壁ドン!』
 無表情でクール、ドS全開モードの柴田。
 柴田は望月に『壁ドン』をしたまま、彼の耳元で囁いた。
 「望月先輩、やはり僕たちは見学のみにしておきます。
ただし、一人だけこの部に最適なヤツが
いますので、そいつを入部させたいと思います」
 頬を赤らめた望月が言った。
 「え~、それって青木君?」
 柴田は望月に顔を近づけると、
 「ちがいますよ先輩、青木君じゃない」とクールに言った。
 更に耳まで赤くなった望月が言った。
 「え~、じゃあ誰?」
 シルバーフレームを整えた柴田が言った。
 「小野田君です」

 柴田の言葉に一同、唖然とした。
 「お・俺?なんで俺なの?」と一番驚いた小野田が言った。
 望月も柴田に聞き返した。
 「何で、彼なの?」
 「それは、彼が学年一のモテ男だから
ですよ先輩、
彼がこの部に入るときっと数少ない女子も
入部してくれるはずです」と柴田が言った。

 「確かに望月部長、これはいい提案ですよ」
 と葵が言った。
 「そうだな。本当は四人とも入部してほしいが、
学年一のモテ男が入部してくれるなら……よし、
小野田君に入部をしてもらおう」と望月が言った。

 それを聞いた、柴田達……
 「と言うわけで、小野田頼んだぞ」
 と柴田が言った。
 「悪いな小野田」と青木が続ける。
 「僕、食べに来るからね~」
 可愛い顔の井上が笑った。

 小野田にそう告げると、柴田、青木、井上は
家庭科室から出て行った。
 ひとり取り残された小野田、
 「小野田君、入部してくれてありがとう」
 と可愛い葵が話しかけた。

 苦笑いをした小野田が振り返ると、
三角巾を頭につけ、エプロン姿の大勢の
 『メガネ男子』が小野田を取り囲んだ。
 「小野田君、よろしくね、小野田くん、
小野田くん」
 もみくちゃになる小野田。
 「助けて……僕、伊達メガネなんです」
 と小野田が呟いた。
 恐るべし……メガネ男子。