その日の放課後、葵が小野田に言った。
 「小野田君、さっきはどうもありがとう。
 これ、よかったら食べて」と葵は小野田に
チョコレートを差し出した。
 「これって……」と小野田がボソリと言った。
 「甘い物嫌いだったかな?」と小野田の顔を覗き込む葵。
 「い、いや、甘い物好き、好き、大好き」
  と慌てた口調の小野田。
 「よかった。じゃこれ」と言うと葵は小野田に
チョコレートを渡した。
 「じゃあ、私、日直だから、課題ノート職員室に
持って行かないといけないからこれで」
 と言うと葵は教卓に積まれた課題ノートを
重そうに持つと教室を出て行った。
 「可愛いなぁ~」
 小野田はチョコレートを胸の前で抱きしめた。

 その時だった、ガタンと椅子が倒れる音が聞こえてきた。
 小野田が音がした方向を見ると、
四角い黒縁メガネ、
前の席の井上が教室から勢いよく
廊下へ飛び出してきた。
 右隣の小野田、左隣の柴田、後ろの席の青木は
急いで教室の窓から廊下を覗く。
 『浜辺葵』を追いかける前の席のヤツ、
葵に追いつくと、四角い黒縁メガネの井上が
息を切らしながら葵に話掛けているのが見えた。

 「浜辺さん、ノート重いでしょ? 僕も職員室に
用事があるから持ってあげるよ」
 と彼の『十八番』可愛い系、甘え顔の笑顔で
彼女にいきなりアプローチしたではないか……
井上の『十八番攻撃』をまともにくらった葵、
少し頬を赤くすると「じゃあ、お願いしようかな?」
と恥ずかしそうに呟いた。
 「うん、じゃぁノート貸して」
と葵からノートを受け取ると、
 「浜辺さん、行こうか」と言うと二人は廊下を歩き出した。
 小野田の先制攻撃の後、速攻でリターンを決めた
四角い黒縁メガネの井上、彼は後ろを振り返ると、
小野田、柴田、青木にニコっと微笑んだ。
 それを見た伊達メガネの小野田、
 「あのやろ~もう『十八番』を使いやがった」
 と悔しそうに言った。
 「この勝負、大混戦になりそうだな」
 腕組みをしながら強面・細長ノンフレームの青木が言った。
 「ああ、でもこの勝負面白くなりそうだ」
 ドS系、シルバーフレームの柴田が言った。
 こんな『メガネ男子の戦い』をよそに、
ニコニコと笑いながら四角い黒縁メガネの井上に
課題ノートを持ってもらい、手ぶらで職員室へ行く葵であった。