浜辺葵は、前後左右をメガネをかけた
『メガネ男子』に囲まれている。
 クラスの女子と楽しい女子トークをしながら
お昼ごはんを食べた彼女、
昼休みが終了する5分前になると、
各場所散らばった彼女も中庭から
教室に戻ると自分の席に着席する。
 「あれ? 井上君、柴田君、青木君、小野田君、遅いな?」
 いつもは彼女が着席する5分前には四人の
 『メガネ男子』は、葵を待ち構えるように着席している。
 葵はいつもと違う教室の様子に少し違和感を感じた。
 バタバタと廊下を走る音がした。
 「セーフ……」と井上が教室に走り込んで来た。
 続けて小野田も走り込んで来る。
 「間に合ったな」と息を切らしながら
 葵の右隣りに着席する小野田はずれてしまった
『伊達メガネ』をかけなおす。
 しばらくして、強面の青木がズボンのポケットに
両手を突っ込み教室の中に入ってくると、
葵の横を通り過ぎ彼女の後ろの席に着席する。
 そして、ラスボス感を出してオオトリの
柴田の登場。
 葵にゆっくりと近づくと左隣の席に座った。
 柴田が着席したと同時に5時間目の授業開始の
チャイムが鳴った。
 5時間目の授業は、葵が苦手とする数学。
 お昼ごはんでお腹一杯になった彼女に睡魔が襲う。
 黒板に書いた数学の鎌田先生の文字を必死に
ノートにうつす葵。
 その文字はミミズがはったような状況……
だった。
 「ね、眠い」彼女は必死に睡魔と戦う葵。
  右隣から小声が聴こえてきた。
 「浜辺さん、大丈夫?」と心配そうな声で
小野田が声をかけてきた。
 「あっ! 小野田君、眠くて、眠くて」
  小声で返事をする葵。
 「お昼休み明けの数学はきついよな。
 これ、食べなよ」
 と言うと小野田は『ミントス』を渡した。

 「これ、大丈夫かな?」と葵が心配そうに言った。
 「大丈夫だよ。僕が今から先生に質問をするから
その間に口にパクっと入れなよ」
 小野田は片目をつぶり葵に合図した。

 「小野田君、ありがとう」
 と葵が『ミントス』のケースを受け取った。

 「先生~! 質問があります」と手を挙げると
小野田は鎌田先生の元に歩いて行った。
 葵は小野田に言われたとおりに『ミントス』を
数粒口の中に入れた。
 彼女の口の中に、ミントの香りがス~っとした鼻を通る。
 彼女の睡魔は一気に吹っ飛んだ。
 小野田が質問を終えて自分の席に戻って来た。
 「大丈夫だった?」と爽やかな笑顔で葵に聞いた小野田。
 「うん、小野田君のお陰で目が覚めたよ。ありがとう」
 葵は笑顔で小野田にお礼を言うと黒板の字を
ノートに書き写し始めた。
 「それはよかった」
 と小野田は呟くと誇らしげに周りを見渡した。
 後ろを向いた井上から「ずるい……」と心の声が聞こえる。
 葵の横顔越しに柴田が小野田を見ている。
 「先制攻撃か」と冷静に分析を始めた
柴田の心の声。
 「おのれ、小野田め」強面の青木が凄い形相で
 小野田を睨んでいた。

 三人のそれぞれの表情を確認した小野田、
 「個人戦! 個人戦」呟くと井上、柴田、
青木に人指し指を立てて三人を煽った。

 今、ここに『浜辺葵争奪戦!』が開幕した。

 現在のとこ、右隣の小野田が一馬身リード……。