なんだと思えば、水面に映る私の顔は泣いていた。こんなところを誰かに見られれば、また気分を悪くしたと、酷い目に遭わせられたり陰口を叩かれたりするのだ。私は水を捨てると誰にも見られないよう、屋敷の壁に隠れてしゃがみこんだ。

「……ふぅ、はぁ」

 何度息を吸い、吐きだしても、口が塞がれてしまったような感じで胸が苦しい。 すぐ隣りにあった、打ち捨てられて朽ち果てた荷馬車が目に入る。風雨に晒されぼろぼろで、もう誰にも省みられることもないだろうという姿が、安らかに思えて少しだけ羨ましかった。きっとこれは、なにもかも終わってしまった後の私だ。

 ここに居る限り、私はずっとこのままなのだ。ぼろぼろになるまでこき使われて動かなくなれば捨てられるただの道具。ならば、一日も早く壊れて、誰の目にも映らなくなってしまえばいいのにと……そんなことを思う。
でも……それを願うことすらどうやら甘かった。

 穏やかな終わりなどこの先の人生では望めない、そう思わせる出来事がこのわずか数日後に起こってしまったのだ。