「あたしだって他人の世話してる暇はないんだけど……。でもいいわ、なんか事情があるって納得できたし。やっぱりこの世の中、どん底から這い上がってこそよ！　ふっふっふ～ん」

　愚痴を途中で機嫌よさそうな鼻歌に変え、彼女が案内してくれたのは、城からやや離れた一角に佇む、クリーム色の壁がかわいらしい一軒の建物だった。周りには日当たりのよい花壇が置かれ、眩い日光を受けた花々が綺麗に育ち、風にそよぐ。

　今は仕事で出払っているのか、中に人の気配はない。リラフェン嬢は年季の入った木製の扉を両手でぐっと押し開くと、私を内部へと誘う。
　質素ではあるが、温かみのある木造りの内装。よく手入れされ、住まう人たちの愛着がそこかしこに垣間見える調度の数々。

　玄関口の真ん中で腰に手を当て、胸を張って直立し――リラフェン嬢は満面の笑顔で言い放った。

「ハーメルシーズ城で働く女使用人の館にようこそっ！　今日からここが、あんたの家になるのよ！」