私も王都で暮らしていた頃、お城というものを目にする機会は幾度もあった。なんせそれは、ただ街にぼうっと突っ立っているだけでも、自然とその姿が目に入って来るほど巨大なものである。
そして、私が訪れたこのハーメルシーズ領にもそれは存在していた。王都ほど、絢爛華麗といった感じの煌びやかなものではないにしろ、その巨大さは記憶にあるものと遜色ない。
ハーメルシーズ城――どうやらこの立派な銀鼠色の城郭が、ノルシェーリア王国の西端に広大な領土を有す、ここハーメルシーズ領の勢力の象徴のようであった。
「どうした。まさか今さら王都に帰りたくなったというわけでもあるまい?」
「い、いえ……そんなわけでは」
私はもちろん首を振る。けれども……たとえこの領地を治めているというディクリド様が嘘を言う人ではないとなんとなく分かっているとはいえ、いきなりお城の中に足を踏み入れるのに躊躇しない人間がいるだろうか。
そうした心構えができていなかった原因は、そもそも私の認識違いにあった。辺境伯という身分と身なりの高貴さからある程度裕福な貴族であることは予想できても、ここまでの大勢力をまとめ上げている御方だとは夢にも思わず、魔導具以外の知識に疎いという私の不勉強さもそれを助けた。
そして、私が訪れたこのハーメルシーズ領にもそれは存在していた。王都ほど、絢爛華麗といった感じの煌びやかなものではないにしろ、その巨大さは記憶にあるものと遜色ない。
ハーメルシーズ城――どうやらこの立派な銀鼠色の城郭が、ノルシェーリア王国の西端に広大な領土を有す、ここハーメルシーズ領の勢力の象徴のようであった。
「どうした。まさか今さら王都に帰りたくなったというわけでもあるまい?」
「い、いえ……そんなわけでは」
私はもちろん首を振る。けれども……たとえこの領地を治めているというディクリド様が嘘を言う人ではないとなんとなく分かっているとはいえ、いきなりお城の中に足を踏み入れるのに躊躇しない人間がいるだろうか。
そうした心構えができていなかった原因は、そもそも私の認識違いにあった。辺境伯という身分と身なりの高貴さからある程度裕福な貴族であることは予想できても、ここまでの大勢力をまとめ上げている御方だとは夢にも思わず、魔導具以外の知識に疎いという私の不勉強さもそれを助けた。