目の前には刃物を握りしめたかつての兄ザドの姿が……。

 窮地に陥った私を見下ろす彼は、小汚い格好で無精髭を生やし、まるで浮浪者のようだ。
 恐怖を思い知らせるよう、一歩一歩こちらに歩み寄って来る彼に、私は時間を稼ごうと後ろに這いずりながら尋ねた。

「ザド……、いったいあなたの身になにが起きたんです?」

 すると彼は、額に手を当てて狂ったように笑い出した。

「くっくっくっ……あはははははっ! もうお兄様とは呼んでくれないのかぁ、サンジュ。聞いてくれよ、俺はお前のせいで散々な目に遭ったんだぜ?」

 彼は苛立ち混じりに店の商品を蹴散らすと、身振り手振りを交えながら、王都でその身に起きた出来事を話し出す。