ハゼルハイド砦前の平原では、急速に戦が進行しつつあった。
 迎え撃つマルディール軍の攻略に向けて、全戦力を注ぎ込んだハーメルシーズ衛士団がぶつかろうとする。

 本隊、左翼、右翼の三つの部隊に別れたマルディール軍の対応は、両翼の部隊を前面に押し出して、その突撃を防ぐ構えだ。だが虚を突かれたのか動きが鈍い。
 その間に、ハーメルシーズ衛士団は前後ふたつの部隊に別れて陣形を整え、突撃の方向を右側面にずらしてゆく。

 先駆けとなったのは、フィトロ率いる前側の、騎馬隊を中心とした囮部隊だ。

「いくぞ! 敵側面に大打撃を与え、やつらの注意を引き付ける!」

 ディクリド率いる本隊を守るように先行していたその部隊は、まだ準備の追いついてないマルディール軍左翼……向かって右側の部隊の横腹に勢いよく突き刺さる。
 それを確認し、ディクリドは、後ろに付いていた本隊を切り離し、思いっきり囮部隊の背後を駆け抜けた。

(さすがだな……フィッツ)

 衛士団の本隊は、彼らの献身によりマルディール軍の両翼部隊を振り切って、敵軍本隊の後方へと迂回できた。真正面からの突進を待ち構えていたマルディール軍は、今や大きく混乱している。