凍える風の吹く季節を乗り越えた小麦が、実りの時期に備え穂を揺らし始めた。命が大地を彩りだす春の到来。
 それは急速にここハーメルシーズ領にも影響を及ぼしており、後数カ月もすれば、収穫の喜びを寿ぐ人々たちで、このファルメルの街も大きく賑わうことだろう。

「お姉ちゃんありがとう!」
「うん、また来てね」

 お母さんに連れられて来た女の子に、たった今買ったところのほんのり光る魔石をあしらった髪留めを付けてあげると、彼女は大きく手を振って帰ってゆく。
 そんな姿に元気を分けてもらいながら、用事を済ませた私は今の生活拠点兼仕事場である魔導具店“辺境伯の御用達”へと帰って来る。
 すると、ふたりの女性が帰還を迎えてくれた。

「おかえり」
「見送りお疲れ様です!」

 リラフェンとルシル。すっかりとお馴染みの姿になりつつある彼女たちとは、以後も良好な関係が続いている。でも……今ではそう言えるけれど、あの裁判の後、大きな喧嘩をしてしまったりもしたのだ。