法廷の至るところから動揺の声が乱れ飛び、裁判は収拾がつかなくなった。

「何者だあの男は……」
「さ、裁判所だぞ!? 審議の最中には何人たりとも立ち入れぬはず……」
「静粛に、静粛にーッ!」

 裁判官たちも困惑したのか、椅子を大きく鳴らして立ち上がり事態の収拾に乗り出すが、その様子がさらに傍聴人たちの焦りを炊きつけた。

 しかしその騒ぎも、ディクリド様が一度足音を高く立てて踏み出し、左右に目を走らせれば、自然と見えない力が働いたように、ボリュームを下げていく。
 だが、法廷に足を踏み出した彼の行動を、裁判長が制止した。

「待ちなさい……! お主が遠方のハ―メルシーズ領を収める大貴族、ディクリド・ハーメルシーズであることは、私とて存じておる。しかし、ここは国家に変わって裁可を下す、神聖なる議場。事案に関係もない者が足を踏み入れることはまかりならん!」

 ディクリド様は戦勝の式典などで王都に出向くことも多く、裁判長はどこかで彼を見かけたことがあったのだろう。その言葉に警備兵たちが動き、彼に詰め寄っていく。