ちなみにこの世界では、魔術というのは限られた人々に偶発的に宿る特別な力を指す。
 あるものは火の勢いを制御したり、またある者は空を飛び、あるものは姿を透明にすることができる。それは他の人には決して真似ができない特別な能力のはずだった。

 父も、自分の身体に小さな磁力を発生させることができ、普段はごみの中から鉄屑を探すくらいにしか使い道はなかったが、そんなものでも魔術は魔術。希少だということで、王国政府の魔術省の一員として迎えられ、子爵位を授かることができた。

 ただ、そこではもっと大きな魔術の才能を持った人間がごまんとおり、うだつの上がらない毎日を過ごしていたところ、魔導具という、魔石を源に魔術の効果を顕す奇跡の器物が発見されたのを機に、政府に新設された魔導具局の研究者として鞍替えすることになった。魔導具は、本人に魔力がなくとも扱える。故に父は、私たち子供たちにもその知識を徹底的にたたき込み、魔導具局に加入させようと考えたようだ。

 ここまでであれば、ある意味では子供の将来を憂う親の美談で済んだかもしれない……。
 だが、決してそうではなかった。あくまでこの計画は父が自らの地位の向上を望んで立てたものであり、彼はそのために我が子をも利用しようと企んだのだ。 そして――その煽りを一番に受けることになってしまったのが、私というわけだった……。

 魔導具師としての教育、それ自体は苦では無かった。勉強をしている間は一時にしろ、屋敷中から発せられる拒絶の視線を感じずにいられたのだから。私は逃避するように、魔導具の世界にのめり込んでいった。